あらオノ君
バイトから帰り道、
自分の家の前を歩いていると、
後ろから声をかけられる。
「あら?オノ君?」
「あ・・・」
しまった・・・
“すずたん”だ・・・
実は、数日前、ヒロセの舞台を
観に行った後の飲み会で、
突然キレて、帰ってからというもの、
俺は、“すずたん”に会わないように、
会わないように避けていた。
今夜も、ちゃんと鉢合わせしないように、
注意してたはずなのに・・・
“すずたん”は、コンビニの袋を片手に持ち、
足元にいるゲンは、不思議そうな顔をして
俺の顔を見ている。
「あ、すみません・・・」
あんな風に、“すずたん”の友達のタツさんに
キレちゃって・・・
きっと、幻滅しただろうな・・・
正直、“すずたん”に、
会わせる顔なんて無いよ・・・。
俺は、軽く会釈した後、すぐにでも
その場を立ち去りたかったが、
足元には、いつの間にか、
ゲンが擦り寄ってきている。
そして、撫でてくれ、と言うように
前足で、俺の足をカリカリとかいている。
ゲン・・・
・・・そうだよな。
やっぱ、このまま何も言わずに去るのは
ダメだよな・・・
俺は、ゲンの頭を軽く撫でると、
“すずたん”に思い切って切り出す。
「あの・・・
この前の飲み会のこと
なんですけど・・・」
「あぁ、うん」
“すずたん”は、じっと俺の目を見ている。
「・・・ホントに、すみませんでした」
“すずたん”は、頭を下げている俺を、
少しの間、黙って見ている。
え?なに、この沈黙???
うぅ・・・怖い・・・
なんて言われるんだ・・・
俺が、恐る恐る顔を上げると、
“すずたん”は、
ゆっくりと重々しい口調で、
話し始める・・・
「オノ君・・・」
「はい・・・」
「とりあえず、飲もうか」
「え?」
“すずたん”は、持っているコンビニの袋を掲げてニヤッと笑う。
「立ち話もなんだしね」
「あ・・・じゃぁ、はい」
「あれ~?なんか緊張してる?」
「あ・・・いや」
「ハハ、そんなオノ君見るの、
初めてだよ~」
そう言って、笑いながら
家の方に歩いていく“すずたん“。
「・・・ハハ・・・」
う~ん、なんだか気が重い・・・
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか
足元では、しきりにゲンが
俺の足に、まとわりついていた。