ぺらいち君のイマイチ人生

~東京ドームから徒歩5分~

ぺらいち君のイマイチ人生~東京ドームから徒歩5分~

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ありがとう、ゲン

ゲンの心臓が止まった、と連絡があって、
俺とマルオは、“すずたん”と
急いで病院に向かった。

病院の駐車場に車を停め、
病棟の下に駆け寄ると、
時間外だからか、入り口が閉まっている。
慌てて横のインターホンを押すと
すぐさま、病院の
研修生らしき女性が飛んできた。

「こちらです!!!」

足早に歩いていく女性に
案内された病室に入ると、
部屋の中心に置かれた寝台に
ゲンが寝かされており、
そこに、5~6人のお医者さんが囲み、
1人の医者がゲンに
心臓マッサージを施している。

「フッ!フッッ!フッッ!!!」

ゲンは、意識がないのか、
目を閉じたまま、口を開けている。

「っゲぇぇぇぇン!!!」

部屋に入った途端、“すずたん”は、
寝台に駆け寄る。

「ゲぇぇん!!!
 頑張れぇぇぇえ~~~・・・・ぅぅぅ」

“すずたん”は泣きながら、声を絞り出している。

「頑張れぇっぇぇぇぇ!!!」

俺とマルオも、ゲンに必死で呼び掛ける。

ゲン・・・頼むから、頼むから
目を開けてくれぇぇぇ・・・・

「いちっ、にっ、さんっ!しっ」

「・・・秒経過です。交代です」

「フッ!!フッッ!!フッッ!!!」

俺たちが、ゲンに呼びかけている間も、
お医者さんが交代で
心臓マッサージを続けている。

「ゲぇぇぇん!!!頑張れぇぇぇ!!!」

それから、さらに何人かの医者が
心臓マッサージを繰り返す中、
医者の一人が、“すずたん“を呼び止める。

「・・・よろしいですか?」

「ぅぅぅ・・・はい」

「・・・いま、1時間ほど、
 心臓マッサージを

 続けているんですが・・・」

「・・・はい・・・」

「これ以上続けても・・・
 残念ですが・・・」

「・・・・そう、ですか
 ・・・わかりました。

 ありがとうございます・・・」


そんな・・・
そんな・・・
ゲンが・・・そんな・・・

 

 


ゲンは、体をキレイにしてもらって
四角い大きな箱に入っている。
ゲンの顔は笑っているようで、
今にも目を開けそうだ。

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ゲン・・・

箱を持つと、
途端に、また、涙が溢れてくる。

「ぅ、ゲぇぇぇぇん・・・」

数日前、朦朧としながら
入っていた酸素室のアクリル板の小窓から
しきりに出ようとしていたゲンの姿が
頭に浮かぶ。

ゲン・・・、帰りたかったよね。
ごめんね・・・
痛かったよね、苦しかったよね・・・
なんにもしてやれなくてゴメン・・・。
もっと、一緒にいてあげたかった。
もっと一緒に遊びたかった。
もっと一緒に散歩に行きたかった。


遅くなったけど・・・
一緒に家に帰ろう・・・


それから、俺たちは、ゲンを
“すずたん“ちに連れ帰った。

しばらくして、連絡を受けた
ヒロセやタクマやサヨちゃんも
次々と、“すずたん”ちに駆け付け、
ゲンと対面し、泣き崩れる。

「うぅぅぅぅ・・・・
 なんでやぁぁぁ、げぇぇぇん・・・」

「お医者さんが・・・1時間も、
 心臓マッサージしてくれて・・・
 ゲンも、頑張ったけど・・・
 ダメじゃった・・・ぅぅぅ」

説明しているマルオも泣いている。

それから、しばらく、俺たちはみんなで
箱の周りに座り込み、
ゲンの頭や体を撫でてやる・・・。

ただ泣きながら、
誰も何も話さないまま、
時間が過ぎた。

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もう泣き晴らしたと思っても
ゲンの顔を見る度に、涙が溢れてくる。

いたずらっぽく笑うゲン、
ワガママにリードを引っ張るゲン、
オヤツ欲しさに甘えてくるゲン・・・

色んなゲンの姿が浮かんでくる。
さみしい・・・さみしいよぉ・・・ゲン。

「でもさ・・・」

“すずたん”が口を開く。

「ゲンは・・・幸せ者だよ。
 こんなにも、みんなに愛されてね・・・」

そうか・・・
まだ、実感もないし、
うまく気持ちの整理もつかないけど、
ゲンが少しでも、幸せだったんなら、
救われる気がする・・・

“すずたん”は、俺たちの顔を
1人1人見る。

「それに・・・
 こうやって、みんながここに
 集まるようにしてくれたのも
 ゲンのおかげだと思うしね・・・
 私は、もう、この子には、
 感謝しかないよ・・・」

いや、感謝したいのは、
俺たちの方だ・・・
ゲンと出会えて、
とっても癒されたし、
楽しかったし、幸せだったよ。


ありがとう・・・ゲン。

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