リードを外したら・・・
「じゃあ、行きますか!」
俺とタクマは、留守の“すずたん”に代わって
ゲンの散歩に繰り出した。
タクマは、ゲンの散歩に行くのが
初めてらしい。
「俺、リード持っていい?」
「いいよ~。でも、離さんでよ」
そう言って、俺は、
タクマにリードを渡す。
「分かってるって!」
ゲンは、たまに、電信柱を見つけると、
クンクンと懸命に匂いを嗅ぐ。
途中、他の犬が通りかかっても、知らん顔だ。
「ゲンって、マルオ以外の
人間といる時は、
大人しいよね~」
「まぁ、マルオは特別じゃろ~」
そうこうしているうちに、
ゲン行きつけの大きな公園に着いた。
「よしっ!」
そう言って、タクマはゲンのリードを首から
外そうとしている。
「ちょ、ちょっと、なんしよん?」
「え?だって、ゲンもたまには
開放されたいっしょ?」
「いやっ、逃げたらどうするん?」
「大丈夫だって!
こんなに大人しい・・・あ!!!」
リードが外れた途端、ピューンと勢いよく
走り出すゲン。
「あー!!!じゃけぇ、言うたじゃろ!!」
「あれぇ?さっきまで
あんな大人しかったのに~
やっぱりストレス溜まってたんだって~」
「いや、追わんと!!」
「大丈夫!ほら!あそこ!」
遠くの方で、立ち止まって、
こちらをジーーーと見るゲン。
俺たちは、ゆっくりと
ゲンの方に近づいていく。
「もう~、やっぱ
リード外しちゃダメじゃって~・・・」
「そう?ごめんごめん・・・
あ!逃げた!」
「おい!待て!!!」
ゲンは、俺たちが近づくと、
逃げる様に走り出し、
いたずらっぽく、こちらを
振り向いては、また走り出す。
「どこ行った?!」
「あ!いた!あそこ!!!」
ゲンは、公園内の丸っこく刈られた
低い生け垣の向こう側に、
ポツンと止まっている。
「ってか、コレどうやって入ったんだ?」
確かに・・・
よく見ると、ゲンがいる場所は、
生け垣にグルッと囲まれている。
「あ!ここから入ったんじゃない?」
タクマの指さす方を見ると、
キレイに並んだ生け垣の1か所だけ、
ゲンが通れるくらいの穴が
空いている部分がある。
「おいで!ゲン!」
「ゲーン!」
俺たちが必死に呼んでも、
ゲンは、無表情のまま、
こちらをジーーーと見るだけで
動かない・・・
「しょうがないな・・・
行くよ、タクマ」
「え~、行くのぉ~?」
「元はといえば、
お前がリード外したからだろ~?」
「そうだけど・・・」
俺とタクマは、生け垣を大股で
なんとか越えようと試みる。
「もう~ゲ~ン~。
なんで、こんなとこに、
入っちゃったんだよ~」
タクマは、ブツブツ言っている。
「うわっ!いってぇ!」
またごうとした足に、
生け垣の固い枝が刺さる。
ビリッ!!!
「あ!!」
枝が引っかかって、
ズボンの後ろのポケットが破けた・・・
くそぉ・・・
でも、なんとか
生け垣を越えられた・・・
そう思った途端、タクマが叫ぶ。
「あ!ぺらいっち!!ゲンがっ!!」
見ると、ゲンは、いつの間にか
生け垣を通り抜けた向こう側で、
素知らぬ顔をして、
こちらをジーーーと見ている。
「おい!ゲン!!」
走り寄っていくと、ゲンはまた走り出す。
ダメだ・・・追いつかない・・・
「このぉ~~~!」
ゲンは、あっかんべぇをするように
こちらを振り向くと、また走り出す。
その後、俺たちは、30分近く
走っては止まり、
走っては止まるを繰り返す。
「捕まえた!」
「よしっ!」
タクマがなんとか捕まえたときには、
もうクタクタ・・・
リードをつけると、
ゲンは、ニヤッと笑う。
俺たち、完全に遊ばれてたな・・・