ぺらいち君のイマイチ人生

~東京ドームから徒歩5分~

ぺらいち君のイマイチ人生~東京ドームから徒歩5分~

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前回優勝者

昨日、突如として、
カラオケ大会のデュエットの部に
「銀座の恋の物語」という曲で、
タクマとサヨちゃんが
出場することになったけど、
あくまで、俺たちは“すずたん応援部”!

“すずたん”がどうやったら
目標の入賞に入れるか話し合うために、
夕方から、タクマとヒロセとマルオで
いつものガストに集まった。

タクマは、イヤホンをして、
難しい顔をしながら
曲を聞いている。
俺もあの後、「銀座の恋の物語」を
iTunesで聞いてみたけど
タクマ、あんな歌謡曲、歌えんのかな?
すると、難しい顔をしていたタクマが
急にニヤケ顔になる。

「若い2人がはじめて逢った・・・か」

「は?」

「いや、そういう歌詞があってさ。
 サヨちゃんがコレ選んだんだな~
 って思うと・・・なんか・・・フフ」

「はぁ・・・?」

俺としては、タクマとサヨちゃんの
デュエットは、オマケみたいなもんで、
ホントは“すずたん”の応援に
集中したいんだけど・・・

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「ちょっとさ、タクマ、
 もう今週末、大会だよ!?」

「うん、だから練習しなくちゃ」

タクマはニヤニヤしながら答える。

「じゃなくってさ!俺らは
 “すずたん応援部”でしょ?

 今日はどうやったら、“すずたん”が
 入賞できるか話し合おうぜ!」

「でも・・・“すずたん”
 入賞できるんじゃろうか?」

マルオは不安そうに言う。

「おい!できるかなぁ?じゃない!
 絶対入賞させるんや!」

ヒロセはポコッと軽くマルオの頭を叩く。

「イテッ」

それを見ていたタクマが、
イヤホンを外し、口を開く。

「だけどさ、俺、去年の映像
 見てないから、
他の人のレベルも
 よく分かんないしなぁ~」

すると、マルオが俺の方に振り返る。

「あ、そうじゃ!ぺらいちさん!
 去年の映像見たとき、
 二年連続で優勝しとる人が

 近くに住んどるって
 “すずたん”言っとったじゃろ?」

「そういえば・・・」

「へぇ~2年連続??すごいやん」とヒロセ。

「どうだったの?上手かった?」とタクマ。

「いや~さすがに巧かったんですよ。
 なんか優しそうなお婆ちゃん
 じゃったですよねぇ?」

「うん、“すずたん”の2個下くらい
 らしいけど、
もっと若く見えたよ。
 中島みゆきの『糸』歌いよったけど、
 相当上手かった。なんか昔から歌やっとる感じ」

「いつもワシらが行っとるカラオケで
 ほぼ毎日練習しとるって
 言いよりましたよね?」

「うん」

「え~?!」

「そんなん今まで全然気づけへんかった」

タクマとヒロセは驚いている。
そういえば、“すずたん”にも一回、
その人のこと聞いたけど、
スルーされて終わったんだよな・・・。

「どんな練習してんだろうね?」

とタクマ。

「じゃったら、ちょっと今から偵察行く?」

俺の何気ない一言で、
二年連続優勝の実力者のお婆ちゃんを
見るため、“すずたん”に内緒で、
いつものカラオケ屋に行くことに。
カラオケ屋に入り、もうすっかり
顔なじみになった店長に挨拶する。

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「あれ?スズキさんは?」

「いや、今日は俺たちだけなんです。
 いつもの部屋空いてます?」

「空いてるよ」

俺たちは一旦、案内された部屋から抜け出し、
一部屋一部屋、ドアの小窓を
さりげなく覗きながら回っていく。

「ここじゃないな」

「ここもおらんです・・・」

「今日は来てへんのかな?」

すると、角を曲がった先にある
一番奥の部屋から
女性の歌声が聞こえてくる。

♪まわ~るぅ~まわ~る~よ
時代は まわ~るぅ~

中島みゆきの「時代」だ。

「え?ここじゃない?」

「確かに上手いもんね・・・」

「え?どんな人?」

「え、どこどこ?」

「おい、あんまり覗くなって」

おれの制止もきかず、
タクマとヒロセは、
代わる代わる小窓をのぞく。

すると、中で歌っていたお婆ちゃんが
ドアに近づいてくる。

「おい、ヤバイ逃げろ!」

ガチャ。

ドアの前には、品の良さそうな
お婆ちゃんがニコニコしながら立っている。

「・・・なにか?」

小ぎれいにセットされた
ショートの白髪頭が
よりいっそう上品さを醸し出している。

「いえ、部屋を間違えちゃって・・・
 すみませーん、ほら、いくぞ」

俺が慌ててみんなを引っ張ると、
お婆ちゃんはキョトンとしている。

「あぁ~、あなたたち、スズキさんの?」

「あ・・・」

「ほら、いつも練習してたでしょ?
 でも、大変でしょ~?」

「いや、そんな・・・」

「だって、あの人、音痴でしょ~」

「え・・・」

このお婆ちゃん・・・
優しい顔してるけど
目はなんだか笑ってない。

「フフ。それで、いつも場を
 シーンとさせちゃうから、今年は
 大会には出ない方が
 いいって言ってあげたんだけど、
 出ちゃうみたいね~」

「は・・・?」

なんだ、このババア・・・
俺はイラっとして、咄嗟に反論する。

「いや、カラオケは歌の上手さだけじゃないんで」

「あぁ~、ごめんなさい。
 じゃぁ、スズキさんによろしく」

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自分たちの部屋に戻ると、
ヒロセがいきなり大声を出す。

「なんや、あのババア!」

「ちょ、聞こえるよ」

タクマはヒロセをなんとかなだめようとしている。

「聞こえるように言ったんや!」

ぐぬぬ・・・。
でも、優勝者があんな奴だとは・・・
“すずたん”も会いたくないわけだ。
見てろよ・・・
こうなりゃ、絶対なにがなんでも“すずたん”を
優勝させるぞ!