ぺらいち君のイマイチ人生

~東京ドームから徒歩5分~

ぺらいち君のイマイチ人生~東京ドームから徒歩5分~

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カラオケ大会本番③結果発表

“すずたん“が歌い終わった後、
恒例の審査員の一言。

「いや~・・・なんというか、正直
 例年のスズキさんと同一人物とは
 思えなかったです。はい。
 素晴らしかったと思います」

「おいおい、これ審査員の
 オッサンの評価も高いんちゃう??」

ヒロセが興奮気味に言う。

客席で、その後の出場者の歌を聞いた後、
俺たちは急いで
“すずたん”の待つ出演者の控室に向かう。

「“すずたん”お疲れ~~!」

「ぶち良かったですよ!!!」

俺とマルオは、興奮して“すずたん”に詰め寄る。

「いや~、ありがとう。みんなのおかげだよ」

“すずたん”は晴れやかな表情だ。

「なぁなぁ!!これもしかしたら、
 優勝イケるんちゃう?なぁ?!」

「うん!!なんかイケそう!
 デュエットとダブル優勝でしょ!」

ヒロセとタクマも“すずたん”を取り囲む。

「ハハハ、いやいや。ムリだよ、そんな」

「フフ。確か、優勝者は賞品が頂けるそうですね」

珍しくサヨちゃんもノリノリだ。

「え??ディズニーペアチケット??」

タクマはさりげなくサヨちゃんを見ている。

「いやいや、老人会のカラオケ大会だよ?
 そんなんあるわけないじゃん」

俺がそう冷たく言い放っても、
タクマは折れない。

「じゃぁ、箱根温泉とか?
 “すずたん”、去年は何だったの~?」

「え~と、確か去年は・・・」

俺たちが、話していると、
女子の控室の方から、
中島みゆきを歌い上げた前回優勝者
のババアが歩いてくる。

「あ・・・」

またイヤミの一つでも
言っていくのだろうかと
俺たちは身構える。

「良かったわ。感動した」

それだけ言うと、“すずたん”と
握手をして去っていく・・・。

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「あら・・・?」

なんだか拍子抜けした俺たちは
呆然と立ち尽くす。
・・・意外といい人なのか?


俺たちが座席に戻って、まもなくすると、
司会のオジさんがトコトコと舞台中央に
歩いてきて、用意されたマイクの前に立つ。
いよいよ、結果発表の時。

「まずはデュエットの部から・・・
 3位からの発表となります!」

「3位はイヤ!!!最後に呼ばれないと!
 まだ呼ばれるなよ~、呼ばれるな~」

タクマは一生懸命、祈っている。

結局、タクマの祈りは届き、
タクマたちの名前は
最後まで呼ばれず・・・。
デュエットの優勝は、
「3年目の浮気」という歌で
大爆笑をかっさらった老夫婦に決まった。

「は?おかしいだろ。なんで入賞すらしてないの?」

タクマは逆切れしている。

「わたくしは、正直そんな気がしておりました」

サヨちゃんはクールに答える。

「え?なんで?なんで?
 俺らスッゲー良かったじゃーーん!」

「・・・・」

デュエットの部の結果発表が終わり、
続いてソロの部の発表。

「絶対優勝じゃぁ~!!!」とマルオ。

「まぁ、あの中島みゆきのオバハンと
 一騎打ちやろうな!」

ヒロセが言うと、“すずたん”は首を傾げている。

「え~~?そうかなぁ?」

「いや、でもあの会場の
 盛り上がり方はすごかったですから!!!」

俺たちは、座席で祈るようにして結果発表を待つ。

しばらくして、また司会のオジさんが
舞台に現れ、座席がざわつき始める。

「さぁ、いよいよソロの部の結果発表です!
 まずは、第3位からです!」

ドキドキ・・・
俺たちは固唾を呑んで見守る。

「第3位は!!・・・
 美空ひばりの「川の流れのように」を歌った・・・」

よしよし、まだ
“すずたん”の名前は呼ばれない。

舞台上に上がった3位のお婆ちゃんの
喜ぶ声が聞こえる。

「続いて、第2位の発表です!」

「よーし!!!次、あのオバハンが呼ばれれば、
 “すずたん”が優勝や!!!」

ヒロセは叫んでいる。

「第2位は!!!・・・
 加山雄三の「君といつまでも」を・・・・」

あれ????どういうこと?
“すずたん”でも、あのオバハンでもない・・・

「そして!!!・・・・優勝は!!!!」

季節の中で季節の中で季節の中で・・・・!

俺たちは、心の中で祈る。

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「昨年の優勝者!!!
 中島みゆきの・・・『時代』を歌った・・・!!!」

え・・・

優勝のオバハンが舞台上に上がり、
会場内が大歓声に包まれている。

俺たちは呆然と立ち尽くす中、
司会のオジサさんは、進行を続けていく。

「そして!惜しくも3位以内には入らなかった
入賞者を発表します!」

「・・・さん!・・・さん!!」

次々と名前が呼ばれ、舞台上に上がっていく・・・

「・・・スズキさん!!」

その瞬間、“すずたん”はコブシを突き上げる。

「え?!!ヤッター!!!!!」

大喜びして舞台上にあがり
賞状を貰う“すずたん”。
でも、俺たちは、
なんだか複雑な気分だ・・・

「さぁ、帰ろうか!」

帰り道、“すずたん”は、
入賞の賞状を持って、ずっとニコニコしている。

そんな“すずたん”とは裏腹に
タクマはブツブツ言っている。

「いや、でも、おかしいだろ。これ絶対」

「そうや!“すずたん”の方が良かったのに!!
 なんであのオバハンやねん!」

ヒロセも釈然としないようだ。

「いや、入賞だってスゴイことだよ?!!」

しかし、“すずたん”は、あっけらかんとしている。

「でも、“すずたん”絶対、
 優勝じゃ思っとったけぇ・・・」

マルオは悔しそうに涙ぐんでいる。

「まぁ、いいじゃない、順位なんか」

“すずたん”は笑いながらマルオの肩を抱く。

「でも・・・せっかくここまで頑張ってきたのに・・・」

俺がそう言うと、
“すずたん”は、ゆっくりと話し出す。

「・・・ありがとう。みんな。
 こんな老いぼれに良くしてくれて・・・。
 でも、もう正直、結果なんて
 どーでもいいんだよ。

 こうやって、みんながここまで応援してくれて、
 今日、歌えただけで十分。
 こんなスーツまで、プレゼントしてくれて・・・。
 長いこと生きてきたけど、
 こんなに幸せなことはないっていうくらい
 今、幸せなんだよ」

すずたん・・・
“すずたん”は、俺たちの顔を一人一人見ながら
微笑んでいる。

「よし!じゃぁ、今日は、
 みんなで打ち上げ行くか!!!」

“すずたん”の提案に、俺たちは一斉に声をあげる。

「ぃよっしゃぁ!!!!!」

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