絶対ババアを倒す!!
「“すずたん”!もう最初の
♪うつむきかけたぁ~のトコで、
全然うつむきかけてない!!
もっと悲しげに!はかなげに!!」
自分の恋愛以外の事には、
ほとんど熱くならないタクマが
珍しく張り切っている。
「う~ん、難しい。ちょっと休憩しない?」
「ダメダメ!もっかい!」
実は昨日、“すずたん”には内緒で、
今週末の老人カラオケ大会の
前回前々回の優勝者の偵察に行ってきた。
その優勝者のお婆ちゃんは、
表はニコニコ顔だけど、
裏はマジクソムカつくババア。
あんな奴には負けて欲しくない・・・と
俺たち“すずたん応援部”は燃えていた。
「“すずたん”!!!絶対優勝しましょう!!!」
俺がそう言うと、“すずたん”は苦笑いしている。
「いやいや、優勝はさすがに無理だよ~」
「何言ってるんですか!
やるからには、優勝目指さないと!」
「そーだそーだ!!」
マルオもゲンと戯れながら、拳を突き上げる。
「ど、どしたの~?急に。
今日はみんな、なんだか怖いよ・・・」
「え?そ、そうですか・・・?」
俺がマゴついていると、
すかさず、ヒロセが入ってくる。
「実は昨日、見に行ってん!」
「え?なにを?」
「前回優勝者!!」
「え?・・・えーー?!会ったの?」
「せや!あんなババアに
負けとったらあかんやろ!」
「え?話したの?」
「まぁ、ちょっとやけどな。
マジでクソババアやったわ」
「あ~、会っちゃったか~」
「なんかスゲー、上からモノ言われて
俺たちムカついてんスよ」
と、タクマも横から入ってくる。
「まぁ・・・あの人は、
自分に自信があるから・・・
実際上手いし」
「敵を褒めてどうすんねん!」
「いやいや、ハナからあの人を
抜こうなんて思ってないから」
「え~!!そんな弱気じゃ
アイツに勝たれへんって!」
「いや、だから・・・
勝とうと思ってないんだって・・・」
“すずたん”は苦笑いして言う。
「でも・・・昨日“すずたん”のことバカにされて、
俺たち許せないんですよ」
俺がそう言うと、タクマも反応する。
「そうそう、大会出ない方がいいとかも
言ってきたらしいじゃないですか!」
そうだ・・・
昨日の記憶が蘇ってきて、
怒りがフツフツと湧いてくる。
「まぁまぁ。昔からあの人は、そうなんだよ。
私の妻とも仲悪かったから。
私の妻がいたときは、ずっと2位だったからね」
「え?!“すずたん”の奥さん、
そんなに上手かったんですか?」
「ん~まぁね。そのせいで、
私は比較されて大変だったけど」
そうか、あのババアは、
“すずたん”の奥さんに負けたことを根に持って、
“すずたん”に辛く当たってたのか・・・
「ま、カラオケは、楽しく歌うのが一番!
あの人はあの人。気にしない気にしない~」
“すずたん”は笑っている。
すると、隣の部屋で
ゲンと遊んでいたマルオが戻ってくる。
「よっしゃぁ!!じゃぁ絶対優勝じゃぁ~!
ワシ、あんな奴に負けとーない!」
「だーかーらー!」
“すずたん”は、腕をあげ、
マルオを殴るフリをする。
「ハハハ!」
いやー、“すずたん“って
お人好しというか、大らかというか。
でも、俺、自分以外の人のために、
こんなにも腹が立ったのって
久しぶりだな・・・。