カラオケ大会本番②ソロ
「はい!ありがとうございました!!
それでは、審査員の方々、
ひと言、お願いいたします」
タクマたちが歌い終わると、司会が審査員席に振る。
「え~、そうですね。このカラオケ大会には珍しく、
若いお二人の登場で、え~
元気があって良かったと思いますね・・・」
すると、マルオが呟いている。
「なんか当たり障りない、
テキトーな感想じゃのぉ・・・」
「まぁ、審査員いうても、
ただの町内会のオッサンやろ?」
とヒロセ。
「そりゃそうよ。
町内会の小さなカラオケ大会なんじゃけぇ」
俺たちが話している間に、
その後、デュエットの部は、数組が歌い終了。
昼休憩を挟んでから、
いよいよ、ソロの部、開始。
俺たちは、控室に向かう“すずたん”を送り出す。
「じゃぁ、私はそろそろ行くね!」
「頑張れー!“すずたん”!」
俺は“すずたん”に手を振る。
「ワシらがついとるけぇ!」とマルオ。
「“すずたん”ならイケるで!」
ヒロセはガッツポーズしている。
「ありがとう!」
そう言いながら、“すずたん”は
少し恥ずかしそうに、客席を離れていく。
すると、入れ違いざまに、先ほど
歌い終わったタクマとサヨちゃんが
帰ってくる。
「はぁ~楽しかったね~サヨちゃん!!」
「はい。ですが、とても緊張いたしました・・・」
え・・・そんな風には見えなかったけど・・・
「あれ?“すずたん”は?」
「もう控室に行ったよ」
俺がそう答えると、
司会者のおじさんが、
ソロの部の開始をアナウンスし始める。
「え?もう始まんの?“すずたん”の順番は?」
タクマが聞くと、マルオが座席のパンフレットを取り出す。
「“すずたん”は・・・
丁度、真ん中あたりじゃのぉ」
「まぁ、可もなく不可もなくってところやな。
一番プレッシャーがかかんのは、
トップバッターやからな~」
とヒロセ。
「それでは、只今より、
カラオケ大会ソロの部を
始めさせていただきたいと思います!」
パチパチパチ。
いよいよ始まった!
「はい、まず、トップバッターを
務めていただくのは・・・」
「おい!あれ!」
タクマが舞台袖の方を指差している。
「え・・・?」
それと同時に、数日前に
カラオケ屋で会った前回、
前々回の優勝者のあのお婆さんが
黒いレースのドレス姿で登場。
「なんと、ここで、早速、
前回優勝者の登場です!」
会場からは、割れんばかりの
拍手が沸き起こっている。
「うわっ、あのババアがトップ??なんで?」
俺が聞くと、ヒロセが満面の笑みで答える。
「順番は抽選で決まるらしいからな~
でも、俺らからしたら
ラッキーやな!ざまーみろ!
緊張してまえ!!」
ババアは、客席に小さくお辞儀をし、
静かに歌い始める。
曲は、中島みゆきの「時代」。
♪今はこ~んなに悲しくて~
涙~も枯れはてて~
もう二度と笑顔には~なれそうもないけど~
いや・・・でもやっぱり歌うめぇ・・・。
♪そんな時代もあったね~と
いつか話せる日がくるわ
なんだ、この優しく
包み込むような歌声・・・
あまりの上手さに客席からは、
すすり泣くような声も聞こえる。
なんであんなイヤミなババアに
こんな歌が歌えるんだ・・・?
♪まわ~るぅ~まわ~る~よ
時代は~まわ~るぅ
喜び~悲しみ~繰り返し~
パチパチパチパチ!!!!
曲が終わると、司会が
いつものように審査員席に
一言コメントを求める。
「いや~、流石というか・・・
素晴らしいですね。言葉が出ません」
くそ、当然、審査員にも高評価のようだ・・・。
「やば・・・うま・・・」
俺たちも、あまりの上手さに
言葉を失っていた。
その後、何人かが歌ったが、
トップバッターのババアの
インパクトが強すぎて
どれもショボく聞こえる・・・。
「そろそろ、“すずたん”の番じゃわ!」
マルオがパンフレットを見ながら騒いでいる。
「おい!くるぞ!!」
俺たち“すずたん応援部”は舞台に集中する。
舞台袖からは、俺たちが
先日プレゼントした
白スーツを着た“すずたん”の姿が。
「すずた~~ん!!!!!」
“すずたん“は俺たちの方に
軽く手を挙げて答える。
そして、バックから「季節の中で」のイントロが
流れ始め・・・
♪うつむきかけ~たぁ~~
貴方の前を~~
し~ずかにぃ~時は~流れ~~~
「なんだか“すずたん”さん、
とても気持ちがこもっていませんか?」
「うん・・・」
サヨちゃんの言う通りだ。
♪めぇ~~ぐ~る~めぐる~
季節の中~でぇ~
あ~な~た~~は何を~
見つけるだろぉ~~~
そりゃぁ、歌自体は、
他の人と比べて上手くはないが、
なんだろう。いつも以上に、
“すずたん”の歌が心に
入ってくるような気がする。
ふと隣を見ると、マルオ、タクマ、ヒロセも
何かを感じているのか、黙って聴いている。
♪海の青さに~~
とまどうように~
と~び~か~う鳥のように
羽ばたけ高く~羽ばたけ強く~
小さな翼ぁ~ひろ~げぇ~
なんだかグッとくる・・・。
この曲の歌詞のせいか、
“すずたん”が俺たちに向けて
歌っているような気がしてきた・・・
気が付けば
目から涙が流れている。
♪めぇ~ぐ~る~めぐる~季節の中~で~
あ~な~た~~は何を~~見つけるだろう~
“すずたん”が歌い終えると、
会場内は一瞬、静まり返る。
そして、その後、会場内から
今日一番なのではないかという
スゴイ歓声と拍手が送られていた。