ぺらいち君のイマイチ人生

~東京ドームから徒歩5分~

ぺらいち君のイマイチ人生~東京ドームから徒歩5分~

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カラオケ大会本番②ソロ

 「はい!ありがとうございました!!
 それでは、審査員の方々、
 ひと言、お願いいたします」

タクマたちが歌い終わると、司会が審査員席に振る。

「え~、そうですね。このカラオケ大会には珍しく、
 若いお二人の登場で、え~
 元気があって良かったと思いますね・・・」

すると、マルオが呟いている。

「なんか当たり障りない、
 テキトーな感想じゃのぉ・・・」

「まぁ、審査員いうても、
 ただの町内会のオッサンやろ?」

とヒロセ。

「そりゃそうよ。
 町内会の小さなカラオケ大会なんじゃけぇ」

俺たちが話している間に、
その後、デュエットの部は、数組が歌い終了。

昼休憩を挟んでから、
いよいよ、ソロの部、開始。
俺たちは、控室に向かう“すずたん”を送り出す。

「じゃぁ、私はそろそろ行くね!」

「頑張れー!“すずたん”!」

俺は“すずたん”に手を振る。

「ワシらがついとるけぇ!」とマルオ。

「“すずたん”ならイケるで!」

ヒロセはガッツポーズしている。

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「ありがとう!」

そう言いながら、“すずたん”は
少し恥ずかしそうに、客席を離れていく。

すると、入れ違いざまに、先ほど
歌い終わったタクマとサヨちゃんが
帰ってくる。

「はぁ~楽しかったね~サヨちゃん!!」

「はい。ですが、とても緊張いたしました・・・」

え・・・そんな風には見えなかったけど・・・

「あれ?“すずたん”は?」

「もう控室に行ったよ」

俺がそう答えると、
司会者のおじさんが、
ソロの部の開始をアナウンスし始める。

「え?もう始まんの?“すずたん”の順番は?」

タクマが聞くと、マルオが座席のパンフレットを取り出す。

「“すずたん”は・・・
 丁度、真ん中あたりじゃのぉ」

「まぁ、可もなく不可もなくってところやな。
 一番プレッシャーがかかんのは、
 トップバッターやからな~」

とヒロセ。

「それでは、只今より、
 カラオケ大会ソロの部を
 始めさせていただきたいと思います!」

パチパチパチ。

いよいよ始まった!

「はい、まず、トップバッターを
 務めていただくのは・・・」

「おい!あれ!」

タクマが舞台袖の方を指差している。

「え・・・?」

それと同時に、数日前に
カラオケ屋で会った前回、
前々回の優勝者のあのお婆さんが
黒いレースのドレス姿で登場。

「なんと、ここで、早速、
 前回優勝者の登場です!」

会場からは、割れんばかりの
拍手が沸き起こっている。

「うわっ、あのババアがトップ??なんで?」

俺が聞くと、ヒロセが満面の笑みで答える。

「順番は抽選で決まるらしいからな~
 でも、俺らからしたら
 ラッキーやな!ざまーみろ!

 緊張してまえ!!」

ババアは、客席に小さくお辞儀をし、
静かに歌い始める。
曲は、中島みゆきの「時代」。

♪今はこ~んなに悲しくて~
涙~も枯れはてて~
もう二度と笑顔には~なれそうもないけど~

いや・・・でもやっぱり歌うめぇ・・・。

♪そんな時代もあったね~と
いつか話せる日がくるわ

なんだ、この優しく
包み込むような歌声・・・
あまりの上手さに客席からは、
すすり泣くような声も聞こえる。

なんであんなイヤミなババアに
こんな歌が歌えるんだ・・・?

♪まわ~るぅ~まわ~る~よ
時代は~まわ~るぅ

喜び~悲しみ~繰り返し~

 

パチパチパチパチ!!!!
曲が終わると、司会が
いつものように審査員席に
一言コメントを求める。

「いや~、流石というか・・・
 素晴らしいですね。言葉が出ません」

くそ、当然、審査員にも高評価のようだ・・・。

「やば・・・うま・・・」

俺たちも、あまりの上手さに
言葉を失っていた。

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その後、何人かが歌ったが、
トップバッターのババアの
インパクトが強すぎて
どれもショボく聞こえる・・・。

「そろそろ、“すずたん”の番じゃわ!」

マルオがパンフレットを見ながら騒いでいる。

「おい!くるぞ!!」

俺たち“すずたん応援部”は舞台に集中する。
舞台袖からは、俺たちが
先日プレゼントした
白スーツを着た“すずたん”の姿が。

「すずた~~ん!!!!!」

“すずたん“は俺たちの方に
軽く手を挙げて答える。

そして、バックから「季節の中で」のイントロが
流れ始め・・・

♪うつむきかけ~たぁ~~
貴方の前を~~
し~ずかにぃ~時は~流れ~~~

「なんだか“すずたん”さん、
 とても気持ちがこもっていませんか?」

「うん・・・」

サヨちゃんの言う通りだ。

♪めぇ~~ぐ~る~めぐる~
季節の中~でぇ~

あ~な~た~~は何を~
見つけるだろぉ~~~

そりゃぁ、歌自体は、
他の人と比べて上手くはないが、
なんだろう。いつも以上に、
“すずたん”の歌が心に
入ってくるような気がする。
ふと隣を見ると、マルオ、タクマ、ヒロセも
何かを感じているのか、黙って聴いている。

♪海の青さに~~
とまどうように~
と~び~か~う鳥のように
羽ばたけ高く~羽ばたけ強く~
小さな翼ぁ~ひろ~げぇ~

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なんだかグッとくる・・・。
この曲の歌詞のせいか、
“すずたん”が俺たちに向けて
歌っているような気がしてきた・・・

気が付けば
目から涙が流れている。

♪めぇ~ぐ~る~めぐる~季節の中~で~
あ~な~た~~は何を~~見つけるだろう~

“すずたん”が歌い終えると、
会場内は一瞬、静まり返る。

そして、その後、会場内から
今日一番なのではないかという
スゴイ歓声と拍手が送られていた。