結局、なに歌う?
今、東京ドームでは、らん展という
年1のイベントをやっており、
東京ドーム近くの俺のバイト先も激込みで、
ヘトヘト・・・
そんな中、大家さんが、
来月に行われる町内の
老人カラオケ大会で歌う曲を
そろそろ決めないと、ということで、
バイト後に、大家さん家へ向かった。
「こんばんは~」
「・・・・」
返事がない。
大家さんには、申し訳ないけど、
今日は疲れすぎた・・・
さっさと選曲決めて
帰らせてもらおう・・・
「・・・ウーーーン」
家に上がっていくと、
コタツに入った大家さんが
腕組みして唸っており、
ゲンはいつものように、
大家さんに寄り添うように
丸まって寝ている。
「こんばんは~!」
「おう、きたきた!
ゴメンね、疲れてるのに」
「いえいえ、決まりました?」
「さて・・・どうしたもんかね・・・」
「曲ですよね~~」
大家さんによると、
カラオケ大会の審査基準は、
町内の老人会カラオケ大会といえど
結構、本格的に審査しているらしく、
審査項目は、主に
① 選曲②歌唱力③表現力、
④会場の盛り上がり度
などの項目で点数がつけられるらしい。
そして、最後には審査員のコメント付き。
それがまた結構キツめの
コメントも飛ぶそうだ。
「いや、もうね、容赦ないよ、実際。
私も、もうかれこれ10年
やってきたけど、
毎年心折れそうになるもん」
え・・・てっきり、
拍手の音の大きさとかで
優勝決めるのかと思ってたけど、
老人会って結構ガチめの会なんだな・・・
「だから、選曲もすごく大事なんだよ。
オノ君、今まで色々歌ってみたけど、
何が良かった?」
「うーん、そうですね。
盛り上がりって意味だと
やっぱサザンですかね~」
「・・・サザンかぁ~~!
松山千春とサザンだったら、
どっちがいいかな?」
「あ~~~どうですかね~?
・・・サザンですかね~」
「・・・サザンかぁ~~」
「『勝手にシンドバッド』とかって
やっぱ、盛り上がると思いますよ!」
「あぁ~たしかにね~・・・
・・・・松山千春はダメかな?」
うーん。なんかコレ、
大家さんの心の中では、すでに
決まってるような気がする・・・
「松山千春・・・
いいんじゃないですか?
『長い夜』とか」
「あ~そうね~~・・・」
「『大空と大地の中で』もいいですよね!」
「あ~~あれね~~・・・」
あれ?大家さんの返事が素っ気ない・・・
「いや、でもまぁ、やっぱり
大家さんが歌いたい曲が
一番いいんじゃないですかね?」
「うーーん、そう~?
でもさぁ、千春はさぁ・・・」
うわっ、千春って。
いきなり下の名前、
呼び捨てになってるし、
大家さん、絶対に
もう、松山千春で揺るぎないじゃん。
きっと、俺に後押しして
欲しかっただけだ。
「そうですよね!
『季節の中で』の歌詞なんか
響くもんがありますよね~」
「うん!!!そうでしょ?!」
「はい!やっぱり『季節の中で』がいいですよ!」
「やっぱり、そうかな~?」
わ、分かりやすい・・・
でも、これで帰れる。
「うん!じゃぁ千春の
『季節の中で』に決定ですね!」
俺がこたつから出ようとすると、
大家さんは、また腕組みをして
考え込みはじめる。
「いや・・・ちょっと待ってよ」
「え?」
「オノ君が教えてくれた
松山千春のモノマネは、
結構難しいからなぁ~~
できるかなぁ~」
「・・・できますよ!!大丈夫ですよ!
これからまた教えますんで!!!」
「そうか・・・ありがとう」
「はい。じゃぁ・・・
曲も決まったことだし。
これから練習していきましょう!」
「うん、遅くまで、ありがとうね!!!」
「いえ、じゃぁ!」
そして、玄関まで
わざわざ見送りに来てくれた大家さんが
口を開く。
「うん・・・やっぱり明日
ヒロセくんやタクマくんたちにも
聞いてみた方がいいかな??」
もう!!!千春で決まりでいいよ!!!