まずは己を知ること
昨日は、すずたん(大家さん)の
カラオケ練習に行ってきた。
昨日のメンバーは、
マルオと俺だけ。
いつものカラオケ店に着くと、
すずたんは、さっそく
松山千春の「季節の中で」を熱唱する。
♪うつむきかけ~たぁ~~貴方の前をぉ~
「どうだった?」
曲が終わると、“すずたん”が、
今の歌の感想を聞いてくるのが常だ。
「惜しいっ!!!
なんて言ったらいいかな・・・
こう最初と最後のテンションっていうか!
ちょっと待ってくださいよ・・・
うーん・・・マルオ、どうだった?」
「あぁ、ワシ初めて聞いたけぇ、
新鮮でした!」
「そう?」
今まで何度も“すずたん“の
「季節の中で」を
聞かせてもらったけど、
まだまだ正直、微妙なんだよな・・・。
そりゃぁ、一番最初に聞いた時よりは、
上手くなったけど・・・・
今のレベルでは、たぶん
カラオケ大会での入賞は無理だろう。
何を変えたらいいんだろう。
何かいいアドバイスは?
役者をやってるヒロセがいたら、
ここは高音を意識して、とか
もっとビブラート聞かせて、とか
色々具体的なことを言えるのになぁ・・・
俺がブツブツ言っていると、
マルオが急にマイクを持つ。
「ちょっとワシ歌ってもええですか?」
マルオは、最近ハマって、
いつも電車の中で聞いているという
菅田将暉の『さよならエレジー』という歌を選曲。
♪愛がぁぁ~僕に噛みついてぇぇぇ~~
離さないと言うけれどぉぉぉぉ~~
マルオは、気持ちよさそうに歌っている。
俺はその間に“すずたん“へのアドバイスを考える。
う~ん、何を変えたらいいんだ・・・
歌い終えたマルオは興奮気味に
話しかけてくる。
「ねぇ!ワシの歌どうじゃったですか?
結構イケメンボイスじゃないですか?」
どうでもええ・・・
「いや・・・全然」
「ええ~?!ワシ、声だけなら
菅田くんに似てるいう
自信あるんじゃけどなぁ~」
「いや、1ミリも菅田くん入ってなかったよ」
「えぇ~ウソじゃぁ~~」
何言ってんだコイツ。
まぁ、自分の声って、自分が
想像してるのと結構違うからな・・・
あ、そうだ!!!
「“すずたん”!!!」
「な、なに??」
「“すずたん”の歌を録音してみましょう!」
「え?録音?」
「自分の声って聞いたことあります?」
「いや・・・ないかも」
「自分の歌声って、
自分が思ってるのと結構違う
と思うんですよね!」
すると、自分の声が
菅田将暉だと思っている
マルオも賛同する。
「あぁ~~~そうじゃそうじゃ!
そういえば、ワシも小さいとき、
初めて自分の声聞いたとき、
ショックじゃったわぁ~~~」
「でしょ?自分では菅田くんだと思っとっても
全然違うんよ!」
「・・・」
でも、なんでこんな簡単ことに
気づかなかったんだろ。
よし!!!でもこれで、“すずたん”にも
自分の声と歌に違和感に
気づいてもらえれば!
さっそく、俺たちは“すずたん”に
歌ってもらい、スマホのアプリで録音した
音源を再生する。
“すずたん“は、眼をつむりながら、
真剣な表情で聞いている。
「どうですか?」
「・・・・・これ、私の声?」
「そうです」
「・・・・・なかなかいいね」
「え?!!!」
「うん、思ったより上手くなってるね」
「いや・・・」
俺の思惑はハズれ、
“すずたん“は、なぜか
自信をつけてしまった・・・
どうしよ・・・
ん、待てよ。
そうか・・・
この根拠のない自信。
まずは、それを
変えなければいけないんだ!!!