ぺらいち君のイマイチ人生

~東京ドームから徒歩5分~

ぺらいち君のイマイチ人生~東京ドームから徒歩5分~

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今何時?!

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昨夜は、バイトを早く上がって帰宅。
家のドアを開けると、
ドアの隙間からヒラヒラとメモ書きが落ちる。
ん?

『いつものカラオケで待ってます』

って大家さん????
もう10時だけど・・・まだいるかな?

ちょっと行ってみるか。

 

いつものカラオケ屋に着くと、
受付の店主にすぐに部屋に案内される。
部屋の中からは、大家さんの歌声が。

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♪今何時!そうね~だいたいねぇぇ~~
今何時!ちょっと待っててぇぇ~~

サザンの『勝手にシンドバッド』だ。

「お~オノくん!」

「大家さん、もうノド大丈夫なんですか?」

「うん!まぁ大丈夫。それより紅白見た?」

「紅白?あ、はい。録画で見ましたけど・・・」

「すごかったでしょ!!!」

確かに、去年の紅白は豪華だった。
最後に、あの桑田佳祐とユーミンが
一緒に歌ってんだもん。
おまけにサブちゃんも。

どうやら大家さんは、録画の紅白を
見直したところ、テンションが上がって
居てもたってもいられなくなり、
カラオケに来たらしい。

「やっぱり紅白っていいねぇ~~!」

「そうですね~!!!」

俺もテンションが上がってきて、一曲入れる。
サザンだったら、
昔、俺もハーモニカで
練習したこともあるこの曲。
『いとしのエリ―』

♪ 泣かしたこともあ~る 
 冷たくして~もな~お
 寄り添~う 
 気持ちがあれば いいのさ

俺は、桑田佳祐のモノマネをしながら
歌い始める。
まぁ、やり尽くされたモノマネだけど、
結構自信あるんだよねっ。
大家さんもノリノリ・・・と思って
見てみると、なんだか静かだ・・・


♪ 俺にしてみりゃ これで最後のレ~ディ
 エリ~~ マイラァ~ブ 
 ソ~スウィ~ト

曲が終わっても、大家さんは
しばらく黙っている。
あれ・・・?選曲間違えたかな・・・

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「ちょっと調子乗りすぎましたぁ~
 ハハ・・・」

「・・・上手いね」

「え?ありがとうございます・・・」

さっきまで、あんなに
テンション高かった大家さんが
下を向いている・・・
やっぱりちょっとやり過ぎた?

「これ・・・妻が好きだったんだよ・・・」

「あ・・・」

大家さんの奥さんは、
確か5年前に亡くなったって言ってたな・・・

「・・・すみません」

「いや、いいんだよ。
 私もこの曲、すごい好きでね。
 妻の名前がユリ子だったから、
 エリ―をユリーに変えて、

 妻の前でもよく歌ったんだけど、
 いつもダメ出しされてたよ」

「あぁ・・・そうなんですか・・・」

「でも懲りずに何度も歌ってたらね、
 ついには、
妻が曲が始まった瞬間、
 イントロで消すんだよ?」

「あぁ~・・・」

「桑田さんに失礼だ!ってね。
 でも、口惜しいから、その後、
 3曲くらい連続で、

 また『いとしのエリ―』を入れんの。
 そしたら、マイク取り上げられて、
 妻が歌いだしちゃうの。

 それからはマイクの取り合い。ハハ・・・」

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 なんか、いいなぁ。
仲良かったんだろうな。
大家さんと奥さん。
寂しいんだろうな・・・
しまったな・・・
俺のせいで辛いこと
思い出させてしまったかも・・・

すると、ふいに大家さんが
慌てたように時間を聞いてくる。

「オノ君!!今何時?!」

そうだ!うわっ。
スマホを見ると、12時を回っている。
いつの間に、こんな時間経ってたのか・・・

「えっと、もう12時過ぎですね・・・」

「違うでしょ!!
 『そうね、だいたいねぇ~』でしょ!ハハハ」

大家さんは、俺の肩をポンと叩くと、
マイクを持ち、
『勝手にシンドバッド』を歌いだす。

「今、何時?!!」

「あ!そそうね、だいたいねぇ~!」

「今、何時?!!」

「ちょっと、待っててぇぇぇ~~」

「不思議なものね~あんたを見れば~
 胸騒ぎの腰つき~」

「胸騒ぎの腰つき~」