俺も会いたい
この前、銀行の預金残高が足りずに、
家賃引き落としができなかった。
それ以来、家賃は
毎月手渡しにしてもらうことになった。
今月は、先月と合わせて2か月分。
なんとか年が越す前に
お支払いしなければ・・・
「すみません。家賃、遅くなりました」
俺が封筒を手渡すと、
大家さんは中身を取り出し、
お札を数え始める。
「1、2・・・オノ君、有馬記念やった?」
そんな・・・お札を数えながら競馬の話って。
っていうか大家さんも競馬好きなんだ・・・
「いや~まぁ、ちょっとだけ」
「おっ、獲った???」
「いや、オジュウチョウサン
応援してたんですけど
ダメでした・・・」
「だめだよ~有馬は池添(騎手)だよ~?」
「え?!じゃぁ大家さん獲ったんですか?!」
「もちろん」
すごい、大家さん、当てたんだ・・・
「でも競馬は、ほどほどに
しといた方がいいよ~
オノ君、センス無さそうだから、アハハ」
「・・・ハハ、そうですね」
数え終わったお札を封筒にしまった大家さん。
「・・・はい。確かに。
そういえば・・・この前、
私の知り合いが、後楽園に行ってね。
喫煙所でなんだか
『今日はこれが来るんだ』って
ブツブツ言ってる
ヨボヨボの爺さんに会ったらしいんだよ」
「はぁ」
「それで、買った馬券を
見せてくれたらしいの」
「へ~」
「それが3連単の一通りに1000円賭けてて」
「3連単一通り?!!それは無理でしょう?」
3連単とは、1着~3着までの着順を
順番通りに当てる、
当たった時の配当は高いゆえに、
一番当てるのが難しい馬券。
「そいつもそう思ったんだけど、
せっかくだからって、
オッズも何も見ずに、その爺さんと
同じ馬券を買ったらしいのよ」
「え?まさか・・・」
「そう、それがまさかの大当たり。
5万馬券」
「5万馬券?!!
え・・・。
そしたら1000円が50万?!!」
そんな、仙人みたいな爺ちゃんがいるなんて。
俺もそんな爺ちゃんに会ってみてぇ~・・・