ヒロセ参戦!!!
バイトを早上がりした午後6時、
スマホが鳴った。
「あ、オノ君、今日空いてる?」
先週、大家さんとカラオケに行ってから、
大家さんから着信が入ることが多くなった。
しかし、大体いつも
バイト中で電話には出られず・・・
バイトが終わるのは深夜になるので
折り返しもできなかった。
カラオケの練習か・・・
でも今日は、
「ウイイレ2019」のアプリ(ゲーム)が
アップデートされたから
帰ってからゆっくりやろうと
思ってたのにな・・・
正直、めんどくさいなぁ・・・
そうだ!これを機に、
うまくヒロセに押し付けて・・・
「あの~、バイト先に、
俺より歌が上手いやつがいるんですよ!
役者を目指してるヤツで。
そいつ今日呼んでもいいですか?」
「そりゃ~賑やかになるね」
そう大家さんは、快諾してくれた。
ヒロセに連絡すると、
「ほんまにぃ?!!
やったー!ほないくわ~」
と、即答・・・w
駅前のガストに、
チャリでスっ飛んで来た
ヒロセの第一声は
「腹減ったわ~」だったけど。
そしてガストでは、
ハンバーグ、パスタ、デザートと
案の定、全く遠慮することなく
オーダー。
しかし、
初対面の他人(俺)の大家さん
相手にも関わらず、
全く壁を作らず、相変わらずの
ハイテンションで接するのは流石・・・
大家さんも、コーヒーを飲みながら
ニコニコして聞いている。
「いやー、ごちそうさまですー!
せやけど大家さん、
歌うまなって、どないすんのですか?」
「うん、実はね・・・」
すると、それまでのニコニコ顔から、
急に真剣な表情で大家さんが話し出す。
「実は、毎年、
地区の老人会が集まってカラオケ大会があってね」
「へ~!!せやから毎週練習してんねや」
「そう。まぁ私、
そんなに上手くないし、
歌うことが好きだから、
参加するだけで良かったんだけど・・・
やっぱり、死ぬまでに、
一度は入賞してみたいんだよ・・・」
「なるほど~」
大家さんに
そんな野望があったなんて・・・
カラオケに着くと、
すぐさま練習開始。
今日の練習曲は、
チューリップの「心の旅」
この曲は俺も知ってるぞ。
「♪あぁぁああ~
だからあぁあ~~今夜だけはああ~」
うん・・・
相変わらずの下手さ加減・・・
だけど、
さっき、大家さんの
熱い気持ちを聞いたからか、
前の時よりも、気持ちが伝わってくる。
そして、大家さんは、
なぜか俺の顔をまじまじと
見つめながら、歌っていて、
なんだか恥ずかしい・・・
すると、隣にいた
ヒロセがいきなり地声で、参戦。
「♪君を抱いていたいぃぃぃぃぃぃぃ~~~」
さすが、腹式呼吸で声はデカい・・・
でも、お前が歌ってどうする!!
俺がヒロセを止めようとすると、
大家さんがもう一つのマイクを
俺に差し出してくる。
え?俺にも歌えってこと?
うなずく大家さんから、
マイクを受け取り、俺も仕方なく参戦。
「♪あぁぁぁ~~
明日の今頃はぁぁぁ~~
ぼくはぁ~~汽車のなかぁぁぁ~~~」
なんだろう・・・
むかーしむかし、
俺が18の時、広島から出てくる時に別れた、
当時の彼女の顔が浮かんでくる・・・
あれはせつなかったなぁ・・・
じっとコチラを見ながら歌っている
大家さんの目も
かすかに潤んでいるように見える。
きっと大家さんも
思い入れのある曲なんだろう・・・
なんだか、俺も泣きそうだ・・・
俺たちは、練習そっちのけで、
いつの間にか男3人で円になり、
見つめ合いながら叫んでいた・・・
「♪あぁ~だから今夜だけはぁ~~~」