お雑煮をつくってあげるぞ!!
バイトの帰りに、
久々に立ち寄ったスーパーで
大変な思いをしながら
お雑煮の材料を購入した後、
大家さんの家に向かった。
ピンポーン
チャイムを鳴らすと、
誰も出てくる気配がなかったが、
しばらくして、相変わらずマスクをした
顔色の悪い大家さんが出てくる。
「お雑煮作りにきましたよ!」
俺が野菜の袋を見せると、
大家さんの口元が
少し緩んだように見える。
「おぉ・・・ほんとに来てくれたの?まぁ、上がってよ」
家に上がると、ゲンが玄関まで走ってくる。
「お~よしよし」
大家さんちは、普通に
4人家族くらいが悠々暮らせるくらいの
大きさの家だ。
この前のカラオケの時、
奥さんは5年前に亡くなって、
子供もいないって言ってたから、
大家さん、この広い家にゲンと2人暮らしか・・・
「風邪の具合はどうですか?」
「うーん、まぁ、もう治りかけだよ」
そうは言ってるけど、無理してるんだろうな。
たぶん、食べるものもちゃんと
食べれてないんだろう・・・
台所につくと、俺は、
さっそくお雑煮の準備を始める。
「じゃぁササっと、作っちゃいますね!」
「ほんとに・・・つくれるの?」
大家さんは不安そうな顔で見つめている。
「俺だって、お雑煮くらい作れますよ!
大家さんは、休んでてくださいよ!」
俺は、台所から大家さんを追い出す。
さて・・・と、
自信満々に言ったはいいけど、
作ったことないから、
作り方なんてわからない。
まずは、お餅はどうしたらいいんだっけ?
焼く?煮る?・・・煮るか。
行平を取り出しお湯をわかす。
大根と人参は、
いちょう切りでいい・・・よな?
トンっ、トンっ、トンっ
うん、まぁこんな感じだろ~
「あ~、違うな~~~~」
「え?!」
振り返ると大家さんが。
見てたんだ・・・
「うちは、ずっと
大根と人参は千切りで入れるんだよ~」
「あ~、千切り!わかりました」
トンッ、トンッ、トンッ
大家さん、じっと見てる・・・なんか緊張するな~
これで、合ってる・・・よな?
「あ、違―――うっ!!!」
「え?」
「ちょっと貸してみて」
そう言って、大家さんは、
包丁を持つと、手際よく、
大根と人参を千切りにしていく。
トントントントントントントントン!
うわ~、早ぇ~・・・
「いい?これは料理のキホンなんだけど、
野菜を切る時は、全部同じ大きさにしないと。
火の通りやすさが一緒になるでしょ」
「あぁ・・・すみません・・・」
まさか、大家さんがこんなに、
食に、こだわりのある人だったなんて・・・
ってか、だんだん
大家さん元気になってないか?
切った野菜を、沸かしたお湯に入れて、
あとは味付けか・・・。
テキトウに醤油を入れてっと。
「ちょっとちょっとちょっと!!」
「え?」
大家さんが俺から醤油を取り上げる。
「出汁は??」
「あー・・・」
「ほんとは昆布から取りたいんだけどね。
時間がかかるから、かつお出汁を使って!
あと塩を一つまみ、と。
醤油は香りづけ程度でいいんだよ」
「なるほど~」
「さぁ、ここに茹でた鶏肉とお餅を入れて、完成!」
あーあ。
結局、お雑煮は、
大家さんにほとんど、
作ってもらってしまった・・・
「美味ぇっす」
「そう?」
まぁ。
大家さんの顔色も良くなったし、
結果オーライ・・・かな。