泥沼へ
俺の隣で大学生たちが話をしている。
「おまえ彼女と
まだ付き合ってんの?」
「はい、付き合ってますよ」
「結婚すんの?」
「いやー、結婚は・・・
どうなんですかね」
「おれは25までには
結婚したいなぁ」
「たしかに。30過ぎたら
もうヤバい感じするよね~」
嫌がらせかよ。
30過ぎた俺の隣で
そんな話しやがって。
ふいに、こちらに話が振られる。
「ぺらいちさんは
結婚とかしないんですか?」
「う~ん、今のところしないね」
「ぺらいちさんって
彼女はいるんですか?」
「え?そりゃぁ、いるよ」
なんだか妙に悔しくて、
咄嗟にウソをつく。
「えーー?ほんとですか~?
見栄はらないでくださいよ~」
「その彼女、何次元ですか?笑」
なんだとぉ・・・くそぉ。
俺は意地になってウソをつき続ける。
「いや、本当だって!
昨日も会ったし」
「え?マジすか?」
ウソをつき続けるうち、最初は
信じていなかった大学生たちも、
だんだんと俺のウソを
信じ始めているようだ。
いかんいかん。
こんなことでウソつくなんて
惨めすぎる。
ここいらでホントのことを・・・。
すると、次々に大学生から
質問が飛んでくる。
「え?いつから
付き合ってるんですか?」
「ん?・・・う~~んとね、
結構前からいるよ」
「え!!何歳の人ですか?」
「いや~・・・同じくらいよ」
「じゃぁ29くらいですか?」
「まぁ~~、そんな感じかな」
やべぇ、いつの間にか
本当のこと言うタイミングを
逃してしまった・・・。
ここまでくると、
もう引っ込みはつかない。
「へぇ~、ぺらいちさんに
そんな人いたんだぁ~」
「あはは、いるよぉ~俺だって」
「じゃぁ結婚とか考えてるんすか?」
「そうだね~~、まぁ俺くらいの
歳になるとそういう話も出るね~」
「へぇ~、そうなんだ~」
必死に、存在しない彼女を
想像しながら、延々と
苦しいウソをつき続ける俺。
惨めだ・・・。