ぺらいち君のイマイチ人生

~東京ドームから徒歩5分~

ぺらいち君のイマイチ人生~東京ドームから徒歩5分~

    f:id:peraichikun:20190105020429j:plain f:id:peraichikun:20190105020439j:plain

見ているようで見ていない


俺の大家さん“すずたん”の
カラオケ大会まで
あと3週間をきった。
今日も、“すずたん”は、「季節の中で」
聴きまくって、練習してるかな。

でも、もうちょっと、
高音が出ればなぁ・・・
そのためには、リップロールか・・・
あれ、意外と難しいんだよな・・・
俺もうまくできんし。
やっぱり現役で役者をやってるヒロセが
一番教えるの上手いよな。

俺は、帰り際のヒロセに声をかける。

f:id:peraichikun:20190312005341j:plain


「ねぇ、今日“すずたん”の
 高音チェックしにいこうぜ!

 “すずたん”リップロールたぶん、
 上手くできてないからさ」

「せやな!!!いこか!」

“すずたん“ちに着いたら、早速練習。

「“すずたん”、リップロールやってます?」

「え?あぁ、唇震わせるのでしょ?」

「せや、あれできるようになったら、
 高い音も出やすくなるで」

「うん、やってるよ・・・。
 ぷるるっ・・・ぷるるっ・・・あれ?」

やっぱり“すずたん”できてない・・・
まぁ、俺もできんけど。

「せやな~もっとお腹から出す感じで!
 腹式を意識すんねや、
 ぷるるるるるるるる!!」

ヒロセは、その場でリップロールの実演をしてくれる。

「ぷるるるるるるぅるるるるるる、
 こうやって音の高さを

 変えれるようになったら、ええんやけどな」

「おう、すごい・・・ぷるっぷるっぷるっ」

f:id:peraichikun:20190312005406j:plain


俺も、やってみるが、
ヒロセのように上手くいかない・・・
その時、ヒロセのスマホに着信が。

「わりぃ、ちょっと電話してくるわ~」

5分ほどして戻ってきたヒロセは、
なんだか焦っているようだ。

「あの~~ぺらいっち、
 あとはちょっと
 お任せしてもかまへん?」

「え?どしたの?」

「ちょっと、彼女んとこ
 行かなあかんくなってん」

「えぇ?彼女ぉ???」

・・・そういえば、コイツは、
カワイイ年下の彼女がいたんだった・・・
いつも、これ見よがしに店に連れてきて
自慢してくる・・・。

「いや~、ユイちゃん、マジ天使~!
早く結婚したいねんけどな~!!!」

ハァ???なにが結婚だぁ?!
ノロケまくりやがって。
さっさと別れてしまえ!

前は、あんなに、
“すずたん”ち来たがってたのに、
結局、彼女かい!

ま!彼女いない俺には分かりませんよ。
はいはい。

「あれ?ヒロセ君、帰っちゃうの?」

「せやねん。もうぉ~、
 俺がおらんと心配やからな~、じゃ!」

そう言って、ヒロセは
足早に帰っていった。

あーあ、帰っちゃったよ。

「今日は、せっかく良い
 赤ワインがあったのになぁ~」

「もう、あんな奴、ほっときましょ!!」

「まぁ、仕方ないよね・・・」

「仕方なくないですよ!
 もう大会まで時間ないのに
 結局自分の事ばっかですよ!」

「でも、ヒロセ君の彼女って、
 小さい子供もいるんでしょ?
 だから色々大変だろうからね~」

「え・・・・・・????
 子供???」

「うん、前の旦那の子供とか
 言ってたかな~。

 え?オノ君、知らなかったの?」

「・・・あ、いや・・・」

全く知らなかった・・・

f:id:peraichikun:20190312005426j:plain


「この前、一人でヒロセ君が家に来てね、
レッスンしよう!って。
赤ワインが好きだって言うから、
終わった後、一緒に飲んでたら
いつも以上にマシンガントークで、ハハ」

アイツ、“すずたん”に、
そんなことも話してたんだ・・・
俺にはなんも話そうとせんのに・・・
いや、俺から聞きもしなかったからか。

でもヒロセ・・・
あんなに浮かれてるから、
てっきり、軽い気持ちで
付き合ってるのかと思ってた・・・。
カワイイ彼女とさぞ楽しいんだろう、と。
浮かれているヒロセを見ては妬んで、
応援する気持ちなんて
さらさらなかった。

俺は・・・一体、
今まで何を見ていたんだろう。

なんだかとても恥ずかしい・・・

でも、そうか・・・
アイツもアイツで色々抱えてんだな。

その事実を知った途端、
ヒロセに対してちょっと
優しい気持ちになれる俺も、な~・・・