流行りの細菌
「店長さんいる?」
昼のピークが過ぎ、休憩しようか
というときに、紫色に髪を染めた
白衣のおじいさんが店に入ってきた。
バイト先は飲食店なので、
定期的に外部の「監査」が入り、
抜き打ちで店内の衛生面を
チェックされる。
ちょうど、店長が会議に店を出た後
だったため、俺が対応することに。
店長がいない間に、
何かあってはならない。
しかし、いかんせん抜き打ちなので、
アラ探しをされたらひとたまりもない。
なんとかごまかさないと・・・。
俺は、監査のおじいさんに
ずっと付き添い、おじいさんの話を
聞きながら、店内を案内していく。
「食中毒にも色々あってねぇ~」
「あ、はい」
「カンピロバクターが、
最近、流行りの細菌だねぇ~」
「へぇ~」
「・・・・」
おじいさんは、俺の反応を
ニヤニヤしながらじっと見ている。
最近の細菌・・・
え?もしかしてダジャレ?
わ、分かりにくい上に、つまんね~。
でも、なんとかこのおじいさんには、
気分良く帰ってもらわないと。
「・・・・・・あーー!!
最近と細菌をかけて。
アハハハハ!!!」
おじいさんの表情も緩む。
「ま、そんな厳しくチェック
しないから安心してよ」
よしよし。
愛想笑いバレてないバレてない。
「あ、ありがとうございます!」
まずは、手洗いチェック。
一応、俺は、手の甲、手の平、手首と、
いつもより念入りに洗っていく。
すると、おじいさんはバッグから
白い綿棒を取り出した。
「ま、ほとんど菌とか
検出されないから、
大丈夫~、大丈夫~」
そう言うと、俺の手全体に、
綿棒をまんべんなく
こすりつけていく。
「フンフーン♪」
おじいさんは、鼻歌交じりに、
綿棒を透明な袋にしまう。
手洗いチェックが終わり、
食品の賞味期限、店内の清掃など
衛生状況を確認すると、
おじいさんは帰っていった。
おじいさんもご機嫌で帰ったし、
結構チョロかったな・・・。
数日後、届いた監査の報告書を
見て、店長が固まっている。
「ちょっと、オノくん、
なにこれ・・・」
手洗いの欄に大きく✖印がある。
そして備考欄には、
「黄色ブドウ球菌」
という文字が・・・。
しかも、その横には
「従業員オノ」と、
しっかり書かれてある。
チョロいどころか、
俺の手からは、まんまと
菌が検出されていた。
甘かった・・・。