見栄っぱりの焦り
バイトの休憩中、コンビニに
タバコを買いに行こうとすると、
「あ、俺も行きます!」
と、大学生トミーが付いてきた。
話しながら歩いていると、コンビニにもう着く
という時になって、トミーが慌て始める。
「あ、やべっ。財布忘れたっ!もーー!」
「え?マジで?」
「・・・ぺらいちさん、
500円貸してくれませんか?」
「あぁ、ええけど」
「すみません!店に戻ったら
すぐ返しますんで!」
「ええよ!こんくらい」
ホントは、そんな余裕はないのに、
歳が一回りも違う大学生相手なので、
見栄を張ってそう言ってしまった。
実は、貧乏な俺の今の所持金は2000円。
これであと1週間過ごさなければならず、
自分のタバコも買えず節約しているくらいだ。
「いや!帰ったらすぐ取りに行きますんで」
「ええって!タバコくらい奢っちゃるよ」
「いや!悪いんで、ほんと」
よかった。これで、俺の面子も守られ、
なおかつお金も返ってくる。
奢ると言いながらも、お金が返ってくることを
ひそかに熱望している俺がいる。
その後店に戻ると、団体のお客さんが一気に
来店したらしく、店内がごった返している。
店長が来て、休憩中のバイトに呼びかけた。
「ごめん!店がまわんないから、ちょっと
みんな休憩から戻ってくれる?」
仕方なく、俺とトミーも仕事に戻る。
団体客のオーダーをさばきながらも
トミーに貸した500円が頭から離れない。
もしかしてこのまま返ってこないんじゃ・・・。
なんとかオーダーをさばき、
店もやっと落ち着いた。
店に戻ったらすぐにお金を取りに行く
と言ったトミーも、すっかり忘れている
ようで、他の大学生と談笑している。
どうしよう・・・。
「あのさぁトミー、
さっきの500円なんだけど・・・」
と何気なく言ってみるか。
・・・あ~、やっぱ、ムリ!!!
奢るって一回言っときながら、
カッコ悪すぎる。
ちくしょう。
しょうもない見栄なんか
張るんじゃなかった・・・。
結局、店は閉店し、帰宅時間になった。
トミーの姿は見当たらない。
もうあきらめよう。
たかが500円だ・・・。
・・・されど500円。
「ぺらいちさん、これ」
振り向くとトミーが500円玉を差し出している。
「すみません。遅くなって。
ありがとうございました」
「え?」
返ってきた500円に嬉しくなった俺は、
つい喜びを口にしてしまいそうなのを
堪えながら、必死に演技する。
「ん? あ~、すっかり忘れてたよ。
いいのに~。
・・・いいの?じゃあ」
俺は受け取った500円玉を財布にしまった。