俺の名は。
バイトに入って数週間。
京都出身の演劇フリーターのヒロセに、
俺が以前、役者をやっていたと
知られてから数日間は、変にかしこまられ、
事務所を紹介してくれとせがまれていた。
「オノさん! 俺、竹内涼真と同じ事務所で
いいです! お願いします!」
はっ? それたしかホリプロじゃん・・・。
どんだけ高望みだよ! ムリ!
ていうか、俺そんなコネクション持ってないし。
「いや、俺役者やってたって言っても、
ただの小劇団の一役者だから。
一人も有名人と共演したことないし」
「は? そうなん?」
俺に媚びる必要がないと知ったヒロセの
切り替えは早く、もとの関西弁のタメ口へと
一瞬で戻った。
「そういや、オノちゃんは、下の名前なに?」
「平一・・・」
「ヘイイチ? 呼びづらっ!」
「いや、オノさんでいいよ」
「いやいやいや。俺、敬語きらいやん?
壁失くしたいやん。う~ん・・・どないしよ」
ヒロセは腕を組み、
俺の方をジロジロ見ながら唸っている。
うわー・・・めちゃめちゃ考えてるし。
いいのに、そんなの。
「せや!!!」
ヒロセは、ひときわ大きい声で言った。
「へいいち改め、ぺらいち!!!」
「はぁ?」
「ええやん! 体型もペラッペラやし!」
うわ・・・俺の一番気にしてるところを。
嫌だ、そんなあだ名・・・、絶対に嫌だ!
「アカンわ・・・、ピッタリやん」
ヒロセは自分で言ったことに
腹を抱えて笑っている。
こいつ・・・。
しかし、ヒロセは俺のことなど眼中になく、
腹を抱えながら他の大学生の方に走っていく。
「なぁーーーー! みんな聞いて聞いて!!
オノっちのあだ名! ぺらいち!
ぺーーらーーーいーーーち!!!」
「あ、おいちょっと!」
そんな大声で・・・、くそぉ~。
「え? なになに?」
ヒロセの大声を聞きつけて、バイトの
大学生たちがぞろぞろと集まってくる。
「ぺらいち?」
うわー、女子学生も来たよ・・・。
あー、もうダメだ。俺のバイト生活終わったわ。
これから大学生に「ペラペラ」とバカにされて
過ごさなきゃいけないなんて・・・。
「えーーー! ぺらいちだって~~!!
なんか、かわいくない?」
え?
「うん! なんか呼びやすい! ぺらいちさんって」
「めっちゃかわいい!!!」
ほ、ほんとにぃ~?
「せやろ! じゃ、ぺらいちで決定で!!」
し、しまった・・・。