男気ジャンケン
バイトが終わって、
着替え終わった大学生たちが
タムロしている。
「さて、今日もヤリますか」
「なにを?」
「男気ジャンケンですよ」
男気ジャンケンとは、数人で
ジャンケンをし、勝った人それぞれが
事前に希望した物を全部まとめて
オゴるという、某テレビ番組で
流行ったジャンケンの方法である。
つまり、男気ジャンケンでは
負けた方がオゴられて、
実質的には得をするというもの。
主戦場はコンビニ。
コンビニとはいえ、一番高い
ビールだと300円ほどするため、
10人で3000円ほどになる。
冗談じゃねぇ!!!
俺の今の所持金500円だし。
「もちろん、ぺらいちさんも
やりますよね?」
大学生たちの前でお金が無い
なんて言えない・・・。
「・・・お、おう、面白そうじゃん」
男気ジャンケンでは、
男気という名の通り、
勝った方は手持ちがなかろうが、
財布が空っぽになろうが、
喜んでオゴるというスタンスを
貫かなくてはならない。
逆に負けた方も、負けたことを
喜んだりする言動をしてはならない
という暗黙のルールがある。
もちろん、ジャンケンをする前も、
皆内心とは裏腹の言葉を口にする。
「いや~勝ちてぇ~!
みんなにオゴりたいなぁ~。
ねぇ、ぺらいちさん?」
「もちろん!年下にオゴらせるわけ
にはいかんでしょ。メンツがあるしね」
内心、心臓はバクバクしている。
どうしよ・・・勝ったらどうしよう!
まぁ・・・10人いるんだから
きっと大丈夫だ!
そして勝負の時。
「男気ジャンケン、ジャンケンポン!」
俺は1回目の勝負で、
見事に勝ってしまった。
「よっ、しゃあ!」
暗黙のルールの喜びの
雄叫びをあげながら、
俺の心臓は張り裂けそうだ。
やばい・・・これで残り5人。
追い込まれて一気に
頭に血が上っていくのが分かる。
もうどうにでもなれ!!
・・・勝つなよ!勝つな俺!!!
「男気ジャンケン、ジャンケンポン!」
俺以外全員チョキ。
そして俺は、グー。
「うわー!!!!!!!」
「ぺらいちさーん!ご馳走さまです!」
「お、おい!!
ちょっと、今の後出しだろ!!!」
冷静さを失った俺は、咄嗟に叫ぶ。
しかし、そんなことを聞き入れて
もらえるわけもなく、大学生たちは
ビールを選び始める。
500円で足りるわけない・・・。
これは・・・どうすればいいんだ?
逃げようか。
お金無いって白状しようか。
・・・そうだ!!!
クレジットカードがあった!
レジに並ぶ極限状態の俺に、
名案が浮かんだ。
順番が来た俺は、コンビニ店員に
クレジットカードを渡す。
ピーーーーーーーッ
「すみません。
エラーが出てるんですが・・・」
え・・・、まじか!
カードが止められてる。
「ごめん、ちょっと・・・
お金貸してくんない?」
大学生からお金を借りて、
男気ジャンケンの支払いを
済ませる俺には、
男気のカケラもなかった・・・。