ぺらいち君のイマイチ人生

~東京ドームから徒歩5分~

ぺらいち君のイマイチ人生~東京ドームから徒歩5分~

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ウィスパー接客

バイト先に、
新人のタカタさんが入ってきて
一週間ちょっと。
でも、まだ3回目の出勤だ。
タカタさん専属の教育係のマルオは、
つきっきりで指導している。

「よっしゃ!じゃぁ!まず挨拶から!
 この前教えた接客7大用語覚えとる?」

「えっと・・・」

タカタさんは、メモ帳を取り出し、読み上げる。

「・・・しゃいませ。
 しょう・・・まちください・・・」

「アハハ・・・緊張しとる?
 もうちょい、声が大きくなると、
 ええんじゃけどね~」

「・・・ハイ」

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そう、タカタさんは、至近距離でも
聞き取れないくらい声が小さい。

タカタさんは、気を取り直したように、
背筋を伸ばす。

「・・・まりました。・・・いたしました」

「うん・・・いい感じ!」

・・・マジか。

「じゃぁ、今日は、実際にお客さんに
 接客してみようや~」

「・・・ハイ」

「いい?まず、おしぼりを渡して、
『いらっしゃいませ~』って言って、
『お茶は、セルフサービスになっております』
 って言うんよ」

「い、いらっしゃいませ・・・
 お茶はセルフ・・・」

タカタさんは、つぶやきながら
メモに書き留めている。

「お、ええよ~ええよ~メモは大事よぉ~」

「・・・」

タカタさんは、少し恥ずかしそうにしている。

「で・・・
『ご注文が決まったら、ボタンでお呼びください』

 って言って、帰ってくるんよ」

「・・・わかりました」

「ハイ、じゃぁこれ、おしぼり持って」

不安そうに、お客さんのところへ向かうタカタさん。
マルオと俺は、陰からこっそり観察。

「マルオ、大丈夫なん?あの子」

「大丈夫よ。メモだってとるし。
 すごい真面目なんじゃけぇ」

いや・・・そうじゃなくて。

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タカタさんの初めての接客の相手は、
競馬新聞を手にしたオジさん。

「・・・ビスです」

「・・・え?」

「お茶・・・ルフ・・・・ビス・・・す」

「・・・ん?」

「お茶??あー、これね!」

案の定、オジさんも
タカタさんの声が、聞き取れなかったらしく、
何度も聞き返している。

「おい、マルオ。やっぱり、まだ
 お前が行った方がええんじゃないん?」

「いやいや、大丈夫よ。
 こういう時に、メモが役立つんじゃけ!」

「・・・タンで・・・びください」

「・・・ん?」

「ご注・・・ボタ・・・で」

「・・・は?」

やはり、聞き取れないらしい。

そして、ついには、タカタさんは、
何を思ったか、自分の持ってるメモ帳を
オジさんに見せる。

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おいおい、ウソだろ・・・
メモ帳、お客さんに見せちゃったよ・・・

「あ~~、ボタン?コレ?」

オジさんも、ようやく理解できたようで、
タカタさんは、笑顔で、こちらに戻ってくる。
隣のマルオを見ると、
我が子を見る様に微笑んでいる。

「・・・ネ!」

マルオは、俺に向かって
グッと、親指を立てる。

・・・ネ!じゃねーよ!!