分からん
タクマは、先週の日曜に
サヨちゃんと歌舞伎を観に行った。
俺は、タクマからの
経過報告を待ってたけど、その日は
タクマからは、何の音沙汰も無く・・・
なにかあったのか・・・?と気になっていた。
俺は、その翌日、
バイト先にタクマを発見すると、
タクマの方から話しかけてくる。
「あ~、ぺらいっち、ごめん。
連絡しようとしたんだけど・・・
うーん・・・どう言っていいのか・・・」
「え?何かあったの?」
「うーん、あったというか・・・
なんというか・・・」
タクマは、いつになく釈然としない。
「どうだったの?歌舞伎は?」
「うん、良かったよ」
「へぇ~、サヨちゃんも喜んでた?」
「うん。まぁ、俺は、
良く分かんなかったけど。
とにかく、すげー綺麗だった・・・」
「へぇ~、そうなんだ~!
やっぱり歌舞伎の衣装とか、
キレイって聞くもんね」
「もうね・・・肌がキレイで・・・
いい香りして・・・」
「ん?匂いまで分かるの?」
「そりゃ、分かるよ。隣に座ってるんだもん。」
は・・・?
タクマはアホ面で宙を見つめている。
「おい!サヨちゃんの話かいっ!」
「は?それ以外に、何があんのさ!」
「いや、歌舞伎を観に行ったんだろ?
しかもせっかく高い席で・・・」
「いやいや。もうね、
それどころじゃないって。
あ~、もう首が痛ぇ~、
チラチラ横向き過ぎて」
ハハ・・・
まぁ、初デートなんて
そんなもんだよな。
今までは、なんやかんやで俺らがいたけど、
初めての二人っきりだし。
「それで?」
「いや、その後、ご飯行って」
「ほぉ~、それで、それで?」
「まぁ・・・ね?」
すると、タクマは、意味深な笑みを浮かべる。
「え?・・・まさか?!」
「・・・」
「おい!もったいぶらずに言えよ!
え??え??告白したの??」
「まぁ・・・うん」
「・・・・で?で?で?」
俺は、タクマを問い詰める。
「いや・・・付き合ってください!
って言ったら、
『はい』って言われた・・・」
「えーーーーー!!!!マジで!
良かったじゃん!!!」
っていうか、なんだよ!それだったら、
ひと言くらい言ってくれればいいのに。
「まぁ、やっぱり、
お前の熱い気持ちを
サヨちゃんも感じたんじゃない?」
「うん」
タクマはなぜか、淡々としている。
「いや!なんでそんなに
テンション低いんだよ!」
「それがさ・・・
別れ際にサヨちゃんに
『これからも、良いお友達で』って
言われたんだよね・・・」
「・・・え?」
「これって・・・どういうことなんだろ?」
「ん~・・・」
「付き合ってんのかな?」
「いや~・・・」
分からん・・・
サヨちゃんの考えてることが分からん。
「別れ際だったから、その時、
普通に別れちゃって、何も聞けなくてさ。
昨夜から、モンモンとしてんだよね・・・」
「でも、やっぱり、それは、
サヨちゃん本人に聞いてみるしか・・・」
「うわ~~!怖えぇ~!!!
ねぇ、なんて聞いたらいいと思う?」
「それは・・・よくあるじゃん。
『俺たち、付き合ってるよね?』みたいなやつ」
「うわっ、恥ずい!!
でも、どうしよう・・・
俺の勘違いだったら・・・怖えぇー!」
タクマは、そう言いながらも、サヨちゃんに
LINEをしている。
「あ、返事きた」
「お、早いね。・・・で?」
しばらくの沈黙の後、タクマが絶叫する。
「・・・・・・付き合ってた!!」
安堵の表情を浮かべるタクマ。
やっぱ付き合ってたんだ・・・。
サヨちゃん・・・ますます分からん。
タクマ、幸せそうだけど、
これからも毎日、
心揺れ動かされて大変そうだ・・・
でも、ちくしょー。
そんなタクマがちょっと・・・
いや、かなり羨ましい。
俺も、誰かに、
心揺れ動かされたいよぉ~・・・