デート前準備
ついに、タクマは
サヨちゃんと歌舞伎を観に行く。
「ねぇ、ぺらいっち、
どんな格好して行ったらいいと思う?」
「え?普通でいいんじゃない?」
「う~ん、でもなぁ~・・・」
タクマは、サヨちゃんとの初デートを
翌日に控え、切羽詰まった様子だ。
恋に関しては、百戦錬磨のタクマが・・・
サヨちゃんがそれほど特殊ということか。
「でも、やっぱ歌舞伎だから、
袴かな?!」
「いやぁ~・・・それはやり過ぎじゃない?」
「そうかなぁ?」
「あぁ、“すずたん”なら、
歌舞伎が好きって言ってたから
そういうの知っとると思うんじゃけど・・・」
「そうなの?!じゃぁ、聞きに行こう!」
そうして、タクマと共に
“すずたん”に聞きに行くことに。
そういえば、つい先日、
ヒロセの舞台のチケットのことで
相談に来たばかりだ。
「こんばんは!」
すると、“すずたん”が、ゆっくりと玄関に出てくる。
その後ろから、ダダダッと音を立てながら
走ってくるゲン。
「おう、よしよし。可愛い奴だ」
俺たちは、ゲンの頭を撫でる。
「あ、この前は、ヒロセの舞台の事、
ありがとうございました!
アイツも喜んでました!」
俺が挨拶すると、“すずたん”は、
笑顔で応えてくれる。
「うん、楽しみにしてるよ。
今日は、どうしたの?」
すると、タクマが身を乗り出して、
“すずたん”に詰め寄る。
「教えてください!!」
「ん?何を?」
ポカンとする“すずたん”に
俺は、今日来た目的をざっくりと話す。
「あ~!歌舞伎ね。そっかぁ~!
明日だったの?」
「そうなんです。
記念すべき、サヨちゃんとの
初デートなんです!」
「そっか!それは大事だね。
だけど、服は、全然
ラフな格好でいいと思うよ。
とくに決まりはないし」
「え、じゃぁ、例えば
Tシャツにジーンズでも?」
「いや、それは、さすがに・・・。
ジャケットくらいは、
羽織った方がいいかな~」
「ジャケットかぁ~・・・」
「持ってないの?」
俺が聞くと、タクマは、
落ち着かない様子で
ウロウロしている。
「いや、持ってるけど。
ちょっと、いかにもって
感じじゃない?」
「でも、それくらいはしないと・・・」
「あー、なんか緊張してきたぁ~」
タクマは、乙女のように
胸を押さえている。
「いやいや。お前、今まで、
どんだけデートしてきたんだよ!」
「いや、俺もこんなの
初めてなんだよー!
え~と・・・待ち合わせ場所には、
最低でも1時間前には、
着いときたいから・・・
あ~・・・どうしよどうしよ。
ねぇ、ぺらいっち!どうしよ!!!」
いいなぁ~。
こんなふうに熱い気持ちに
なることなんて、めったにないから、
ちょっとうらやましくなる。
俺もアンナに恋してた時、
こんな感じだったっけなぁ~・・・
タクマは、見たことないくらい
あたふたしてるけど
どこか楽しそうだ。
グッドラック。