ぺらいち君のイマイチ人生

~東京ドームから徒歩5分~

ぺらいち君のイマイチ人生~東京ドームから徒歩5分~

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ノルマ達成

「うっすー!」

小劇場での舞台を
来週に控えたヒロセが、
数週間ぶりに、バイト先に来た。

「いや~、マジでオモロいで!
 人類が地球に誕生するまでの
 話なんやけどな!

 実は、ダーウィンの進化論が・・・」

ヒロセは、舞台のあらすじを
面白おかしく話している。

「なっ?おもろそうやろ?!
 せやからっ!
 誰か、チケット買ってくれへん?」

そう言って、バイトの
みんなに訪ねて回っている。

「あれ?ぺらいっちは?
 もうチケット
 買ってくれたんやんな・・・?」

「いや、買ったじゃろ、この前」

「せやんな~・・・ハァ・・・」

ヒロセは、重い溜息をついている。

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「何?ノルマ足らんの?」

「せやねん・・・ちょっとでも
 セリフのある役を取るためにやな・・・
 見栄はってしもうて・・・」

「おっ!ついに主役級?!」

「いや・・・言うても、
 セリフが一言二言
 増えただけなんやけどな」

「あ~・・・そっかぁ・・・」

ヒロセは、心なしか頬がゲッソリ
してるように見える。

「もう人脈使い果たしてんけど・・・
 あと5枚はいかんと、
 俺の生活破綻してまうわ・・・」

「う~~ん・・・あと5枚かぁ~」

結局、バイト先で、チケットを新たに
買ってくれる人は見つけることができず、
ヒロセは、とぼとぼと、帰っていった。

舞台のノルマって、ホントにキツイ・・・
でも、大丈夫かなアイツ。
アイツ、今、バイトも全然入ってないから、
ノルマ達成できないと、
ホントにヤバいことになりそうだ。

なんとか・・・

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そうだ!

俺は帰り道、“すずたん”ちに寄り、
“すずたん”に、ヒロセの舞台のことを話す。

「んで・・・“すずたん”も良かったら
 観に行ってあげてくれませんかね?」

すると、“すずたん”は笑顔で応える。

「え?もう、予約したよ~」

「え?」

あ、すでに誘ってた・・・
考えてみりゃ、そりゃ、そうだよな。
ごめん、ヒロセ・・・力になれんかった・・・。

「そうなんですか~・・・
 なんか、今日
 バイト先に来たんですけど・・・」

俺が、今日のヒロセの様子を話すと、
“すずたん”は、ニコニコ
しながら聞いている。

「え?そんなことなら
 早く言ってくれればいいのに~!」

「え?」

「あと5枚でしょ?
 私の町内会の友達、
 連れてくよ、5人。」

「え・・・!?いいんですか?!」

「そりゃぁ、もちろん!
 え?5人でいいの?」

「あ、はい・・・
 あと5人って言ってたんで」

「分かった。じゃぁ、
 ヒロセ君に伝えといてよ」

「え・・・あ、ありがとうございます!
 でも、ホントにいいんですか?」

「当然でしょ!だって、私の老人会の
 カラオケ大会ごときに、みんなで
 応援してくれたじゃない!
 あの時、どれだけ私が嬉しかったか・・・
 ヒロセ君が、そんなに頑張ってるんだから、
 今度は私が応援する番だよ」

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“すずたん”・・・
タクマの歌舞伎デートの時も、
アドバイスをしてくれたし、
こんなに、親身になってくれる人、
他にいないよ・・・

「ありがとうございます!」

よーし、こりゃぁ、
ヒロセも喜ぶぞ。