不可!!!
数日前、ばったり遭遇したサヨちゃんから
衝撃の事実を知った。
歌舞伎を好きではない、むしろ嫌いだと・・・
その時、タクマに電話したけど、
派遣のバイトなのか、繋がらず・・・
とりあえず、歌舞伎のチケットをキャンセルさせないと・・・
と思い、タクマにLINEは送っといたけど・・・
そして翌日、タクマから折り返しの電話がきた。
『もしもし、ぺらいっち?どうしよう・・・』
いつになく、タクマの声に元気がない。
よく考えたら、そりゃぁショックだよなぁ・・・
歌舞伎のチケットのために、寝る間も惜しんで
お金貯めてたのに・・・
サヨちゃんが歌舞伎嫌いなんて・・・
『まぁ、元気出せよ・・・。とりあえず、チケットは
キャンセルするしかないじゃろ・・・』
俺がそう言うと、タクマの泣きそうな声が
返ってくる。
『チケット、キャンセルできない・・・』
『え?なんで?!!』
タクマ曰く、歌舞伎のチケットは、
現金払いだろうが、クレジット払いだろうが
基本、キャンセルできないのだそうだ・・・。
マジかよ・・・
『ぺらいっち・・・買ってくんない?』
『え、ちょ、ちょっと待って、2万でしょ??』
『いや・・・俺のも合わせて4万』
『なんでやねん!!』
じょ、冗談じゃないっ!!!
確かに、俺も、歌舞伎を薦めたうちの一人だから、
責任感じなくはないけど・・・
いや!そもそも最初に、
歌舞伎が良いって言い出したの
俺じゃないし・・・!!カサハラだし・・・!
ともかく!俺にそんな余裕はねぇ・・・!!!
タクマには、なんとか
他の策を考えると言って
電話を切った。
う~ん、どうしよう・・・
ここは、年の功を頼りに
“すずたん”にでも相談してみるか・・・
今月の家賃の支払いも、
まだだし・・・
「あのぉ・・・
ちょっと相談があるんですけど・・・」
「おっ、久しぶりだね。相談?」
“すずたん”は座布団で寝転がるゲンを
撫でている。
「あ、とりあえず、家賃を・・・」
俺は“すずたん”に家賃の入った封筒を渡した後、
タクマがサヨちゃんを誘うために、
歌舞伎の一番高い席を予約したことを話す。
「歌舞伎かぁ~、いいねぇ~
私も大好きで、けっこう見に行くよ!」
「あ、そうなんですか!」
おっ、これは
もしかして“すずたん”なら
チケット買い取ってくれたり・・・
「それが・・・」
俺は、サヨちゃんから、歌舞伎が大嫌いだという事を
聞いてしまったこと、そしてタクマが
歌舞伎のチケットをキャンセルできなくて困っていることを
順を追って、“すずたん”に話す。
「・・・ということなんです・・・
一体どうしたらいいか・・・」
すると、黙って、俺の話を聞いていた
“すずたん”は、ゆっくりと口を開く。
「誘ってみなきゃ、
分からないんじゃない?」
「え・・・?」
あ、そうか・・・そうかもな・・・。