BICのライター
カウンターに一人座った、
60代くらいの上品な女性が、
ライターを貸してほしいと言うので、
俺の私物のライターを渡したところ、
いきなりテンションが上がる。
「あら!これBICのライターじゃない!」
「はい?あの・・・
コンビニで買ったやつですけど・・・」
「はぁ~昔は、このBICのライターが、
憧れだったのよ。中々手に入らなくて。
フランスに行く友達がいたら、
おみやげで買ってきて~
って頼んだくらいよ!」
へぇ~・・・こんなライターが・・・
「そうなんですか~、大変だったんですね」
俺が何の気なしにそう答えると、
女性は、さらに興奮して話し続ける。
「イヤイヤ!!昔は、良かったわよ~!」
「え?なにがですか?」
「昔は、それ一つとっても、夢があったのよ」
「夢?」
「今じゃ、何でもすぐ手に入っちゃうでしょ。
昔は、物がないから、
周りのもの全てが目新しくて、
憧れのものに囲まれてたのよ」
「はぁ~」
「それに、あの頃は、
何にでもなれるし、できちゃいそうな
雰囲気があったのよ~。
そのために頑張ろうっていう」
「うーん、なるほど」
そんな時代があったのか・・・
確かに、今とは大違いだな。
今では、家にずっと居て、
誰にも会わなくても、何でも
簡単にネットで手に入るから、
憧れだったり、
これが絶対欲しいから頑張ろう!!!
って気持ちも、なかなか持てないもんな・・・
今の時代、便利になって、
物が溢れてるからこそ、
憧れとか夢も持ちにくいってことか・・・。
だから、自分も含めて、
夢や希望を持てない若者が
増えてるのかも?
「な~んて、
時代のせいにしても仕方ないわよね。
夢を持ちなさい、夢を」
そう言うと、女性はタバコに火を点けた。