背に腹は代えられぬ
舞台の稽古で、バイトに入れないと言っていた
ヒロセが久々にバイト先に顔を出してきた。
なにやら色んな人に
ビラを配りながら話しかけている。
「カサハラ~頼むわぁ~~、
絶対損はさせへんから!」
「いや~、その日はちょっと・・・」
「え~!!じゃぁ、トミーは?
お前は観に来てくれるやろ?」
「えっと・・・確認してみます」
「おう、ホンマ頼むで!メールでええからな!
おっ!!!!ぺらいっち!!!」
ヒロセは、俺を見つけると、
走って向かってくる。
「ぺらいっちは、当然、
観に来てくれるんやろ?!」
「は?」
「ぶ・た・い!!俺の!!」
ヒロセは、無理矢理、ビラを俺の手に
つかませる。
「あぁ、舞台ね」
「はい!!全日程、予約ね!
おおきに~!!」
え・・・まだ、なんも言ってないけど。
まぁ、全日程は無理でも
1日くらい、観に行ってあげよう。
俺も役者やってたから、
気持ち分かるしな。
実は、小劇団の舞台に出る役者って、
ギャラをもらえるどころか、
大体30~40くらいの
チケットノルマがあって、
そのノルマを達成できないと、
足りない分、自腹になってしまう。
ただでさえ、舞台の稽古で
バイトに出られず、キュウキュウなのに、
さらに自腹なんて・・・って
俺もノルマ達成するために必死だった・・・。
昔から仲のいい友達は、
付き合いで、毎回、来てくれたりするけど、
舞台のために時間と
お金をかけてくれる人って
けっこう限られてくる・・・。
それでも、演出家には、
「役者になろうってのに、
40~50人も集められないなら
やめちまえ!」なんて言われるし、
実際のところ、お客さんを集められるかで
配役も変わる・・・
「アンドゥ~~!おねが~い!」
ヒロセは、あろうことか新人のアンドゥにも
声をかけている。
最初は、アンドゥのこと、
自分のシフトが無くなるから、
イジメて追い出そうって言ってたのに。
背に腹は代えられんということか・・・
でもそいつは、
無理だと思うぞ、ヒロセ。
「金、無いんで」
アンドゥは全く相手にしていない。
「分かった!半額でええから!!」
「いや、ヒマでもないんで」
「え~~・・・」
やっぱり・・・。
ヒロセは、一通り、
バイトに声をかけた後、
店内のいたる所に
舞台のビラを貼り付けていく。
「よっしゃ、これでよしっ!!」
おいおい・・・さすがに
店の入り口のドアに貼るなよ・・・
ヒロセが帰った後、
店長が叫んでいる。
「おい!なんだよコレ!!」
ヒロセが店内に貼り付けたビラは
ことごとく店長に、はがされていく・・・。
「あ!こんなとこにも!!
なんなんだよ!コレ!
ダメだよもう!!」
ヒロセ・・・頑張れ~