KA・BU・KI
「KA・BU・KI!KA・BU・KI!」
タクマが中華鍋を振りながら、叫んでいる。
「今日も頑張るぞ~!!!」
タクマは、なかなか、デートに行ってくれない
サヨちゃんを、歌舞伎デートに誘おうとしている。
しかし、歌舞伎は、けっこうお金がかかると聞き、
急きょ、店長にかけあって、
シフトを大幅に増やしてもらったらしい。
「歌舞伎、歌舞伎、言うてるけど、
歌舞伎のこと知ってんの?」
ヒロセはタクマにつっかかる。
「いや・・・」
「ハハハ!そんなんで、
歌舞伎見に行っても恥かくだけやて」
ヒロセが笑うと、
今度はタクマがつっかかる。
「じゃあヒロセ!おまえは知ってんのかよ!」
「ハ、ハァ?そりゃぁ、知ってんで!」
「何を知ってんだよ!」
「・・・拙者親方と申すは、
ご存じのお方もござりましょうが、
お江戸をたって二十里上方・・・」
ヒロセは、いきなり早口でまくしたてる。
「なんだよそれ」
「あら?ご存じない?『外郎(ういろう)売り』」
なつかしい・・・
『外郎売り』とは、声優や俳優が、
発声練習や滑舌を鍛えるために暗唱する
10分くらいに及ぶ歌舞伎の演目。
そういえば、俺も役者やってた時、
散々やらされた・・・
「タクマ、『外郎売り』くらいは
全部暗唱できんとな」
ヒロセはドヤ顔で、タクマに言う。
「こういう知識をサラッと出すと、
女の子はワぁ~、そんなことも
知ってるの?ステキ―ってなるんや」
いや、ドン引きされるじゃろ・・・
まぁ、でも歌舞伎のこと全然
知らんよりはええんか?
そこで、俺も休憩中、
少しだけ歌舞伎の事を
ネットで調べてみると、
意外と耳寄りな情報が出てくる。
「タクマ!!今、調べたらさ、
『イヤホンガイド』と『筋書』っていうのを
借りた方がいいらしいよ!」
「なにそれ?」
「上演中の歌舞伎のセリフや背景を
分かりやすく解説してくれるらしい」
「へぇ~そんな便利なものが!」
「うん、2つで2000円じゃけど!」
「オッケ!」
「これで安心やなタクマ」
ヒロセは、タクマを小突く。
「それでさ、演目と演目の間に
30分くらいの幕間っていう、
お食事タイムがあるらしいんよ」
「へぇ~」
「座席でも食べれるらしいけぇ、
注文しとけばスマートじゃろ?」
「ほぉほぉ。ありがとう!
ぺらいっつぁん!!」
「うん。だいたい1000円くらいで、
一番良いのじゃと3500円くらい」
「オ、オッケ!!」
「ちなみに、歌舞伎の席の値段も
色々あるんじゃってよ?
6000円とか4000円の席も
あるらしいよ?
幕見席っていうのに至っては、
1000円でいけるらしい!!
まぁ、ほぼ立ち見みたいなもんだけど」
「いや!!どうせなら一番値段の高い、
最高の席をとる!」
タクマは豪語する。
「え?一番高いのって、
確か2万くらいやろ?」
ヒロセが言うと、
タクマの顔が一瞬引きつる・・・。
「に、2万・・・?!!」
「タクマ~、そない頑張らんでも、
サヨちゃん、実家、金持ちなんやろ?
出してもらえば、ええや~ん」
「そんなの、男がすたる!!」
タクマ、かっけぇ・・・
確かに、サヨちゃんは、
家にお手伝いさんがいたという
くらいのお嬢さんだけど・・・
例え、金が無くても好きな子の前では
カッコつけて、オゴりたいんだよな・・・
分かる・・・
でも二人で4万か・・・
「よう言った!!頑張れ!タクマ!!!」
俺が言うと、タクマも応える。
「おう!!!」
「はぁ~・・・今は、男女平等の時代やで!
俺なんか、ラブホ代ですら、
平気で割り勘とかしてんで、ハハ」
ヒロセ・・・