同郷はライバル
バイトに入って数日。
マルオという大学生のおかげで、
自己紹介する時の鉄板ネタ”広島弁”は、
敢えなく空振りしてしまった。
まさか、持ちネタを奪われるとは。
マルオめ・・・!
しかも、こいつは夜間大学生らしく
主に昼のシフトに入る。
ということは、俺の大事なシフトが
削られてしまうということじゃないか!?
フリーターには、死活問題なんだよ。
くぅぅぅ、いまいましいヤツめ!
俺は、隣で仕事をしているマルオを
睨みつける。
「オノさん!ワシ、バイトするの
初めてなんですわ~」
「へぇ~」
マルオは人懐っこい笑顔で話しかけてくるが、
俺はあからさまに素っ気ない返事をする。
同郷だからって優しくすると思うなよ。
「え!? オマエそんなこともできんのん!?」
「すみませんっ!」
俺は、事あるごとにマルオに強く当たる。
へん、俺がどれだけ
アルバイトしてきたと思ってんだ。
飲食店の経験値の差を見せつけてやる!
「オノさん、これ知っとります?」
「あ?」
すると、マルオは、いきなり歌いだす。
「♪おっこのみ焼っきなら徳川へ~~
友達たっくさんつっくりましょーーー♪」
え? うわ・・・、懐かしい。広島では有名な
お好み焼きの徳川のCM。
久しく聞いていないが、小さい頃から
繰り返し聞いた、この忘れられないフレーズ。
マルオに合わせて俺も思わず声を出す。
「♪東洋観光グル~プ~」
うわっ。ハモっちゃったよ。
ってか、今もそのCM変わってないんだ!?
まさか10コも下の子と広島を共有できるとは!
その後も、二人で懐かしの
ローカルCM集で盛り上がる。
「♪一万円の!食事け~ん!
TSSあじなプレゼントぉ~」
なんだよ~、こいつ・・・ちょっとカワイイな。