QUEENな男
早朝、珍しく早く目覚めたので、
いつもより、かなり早めにバイト先に着いた。
すると店内から、足踏みの音が聞こえる。
ドンドンッドッ!!ドンドンッドッ!!
ドンドンッドッ!!ドンドンッドッ!!!
あれ?こんな早い時間、誰もいないはずなのに・・・
でも、この聞き覚えのあるリズムは・・・
もしかして、QUEEN?
すると、続けて、
ノリノリだがメチャクチャな英語が聞こえてくる。
「♪バリヨロォボーイメラヒッノイ
ぷれーゴナビッサッデッ
ユガっマっヨっフェイス!!ビッグでぃすぐれいすっ!」
この歌声は・・・ヒロセ。
そうか、映画『ボヘミアン・ラプソディー』見て
感化されたか・・・
「うぃーーうぃる!
うぃーウィルろっきゅーー!!!!シンギンっ!」
裏口のドアの陰からこっそり覗いてみると、
上半身裸になったヒロセが、
机の上に立って歌っている。
・・・おいおい、一人でなんかやってるよ・・・
QUEENのボーカル、
フレディ・マーキュリーになったつもりなのだろうか。
ヒロセは、客席?に見立てた方向に
うなずきながら、手を振っている。
「オぉ~セェンキュウ~!!セェンキュゥゥゥー!!!」
うわー、しかもライブ感覚・・・
どうやら、ヒロセは俺には気づいていない・・・
俺は、どうすればいいんだろう・・・
コイツが歌い終わるのを待って、後から、
何も知らないフリをして、入っていった方がいいのだろうか?
それとも、逆に、今・・・
俺の中の好奇心がムクムクと顔を出す。
ガチャ。
「お~!!ヒロセ!!なにしとん??」
「うぃーウィ・・・」
突然の大声に、ヒロセの体が一瞬ビクつく。
振り返ったヒロセは目を丸くしている。
「るおおおお!?!?!」
と思うと、ヒロセは大きくバランスを崩し、
机とともにガラガラと倒れてしまう。
え・・・・やばっ
「イテェ―――・・・」
立ち上がったヒロセの体は、
けっこうガッシリとしているが、やけに白い・・・。
相当痛いのか、体を反りながら、
打ち付けたであろう腰を押さえ、
苦痛の表情を浮かべている・・・
「ちょ大丈夫????」
と俺が声をかけると、ヒロセは瞬時に真顔に。
「え??・・・・・・どした??」
「いや、どしたって・・・」
ヒロセの白い肩からは、
赤い血も流れてるのに、ヒロセはクールな顔で答える。
「え?なにが?」
「いや・・・なんか、ゴメン」
「え??マジで。なにが?全然、平気やで??」
「いや・・・・フフ」
え?もしかして・・・
何もなかったかのように装ってる??!!!
悪いと思いながらも
俺は笑いをこらえきれなかった・・・