人気のまかない
「オノちゃん、ちょっと
まかない何か作ってくれる?」
「はい、わかりました!」
バイトのまかないは、
いつも基本店長が作るのだが、
今日は東京ドームが
「テイラー・スウィフト」の
ライブがあるため、
うちの店も、少し忙しく、
店長が作る暇がないらしい。
店長の作るまかないは、
美味しくないわけではないが、
基本味が濃く、ご飯無しでは
食べられない。
だが、文句を言ったら、
店長が途端に不機嫌になるため、
誰も何も言えない。
みんな少量しか食べないため、
いつも大量に作られた
まかないが鍋に残っていた。
しょうがない。俺が一肌脱ぎますか。
俺は、まず使える具材を探す。
ひき肉と豆板醤があったので、
麻婆豆腐をつくることに。
バイトが20人ほどいて
全員分作らなくてはならないので、
いつもと勝手は違うが、
麻婆豆腐なら家で
何度か作ったことがあるので、
手順は分かる。
生姜、ニンニクを炒め、
ひき肉と豆腐を合わせて炒める。
しかし、調味料の量は
注意しなければならない。
醤油や砂糖、味噌などの調味料を
少しずつ足していく。
これでよしと。試しに味見をしてみる。
うん、優しい味完成!
よっしゃ、これで少し煮込めば
出来上がり!
休憩の時間になり、
お腹を空かせたバイトたちが
一斉に集まってくる。
「お~!今日のご飯、
ぺらいちさんが
作ったんですか~?」
鍋に大量にあった麻婆豆腐が
みるみるうちに無くなっていく。
もうほとんど空っぽだ。
「あ~あ、俺の食べる分無くなるじゃん」
そう言いながら、俺は微笑む。
ふふ、やっぱみんな
いつも味が濃かったから、
控えめの方が好きなんだな。
ま、こんなもんよ。
休憩所に行くと、店長も麻婆豆腐を食べている。
「これ、味薄くない?なんかパンチがない」
「えー?そうですか?」
いやいやいや、
いつもの店長の味付けが
濃すぎなだけだから!
いつも余りっぱなしの鍋の中だって
今日はほとんど無くなってるでしょ。
「うん、これやっぱ薄いね・・・」
もー、いーかげんにしてよ。
仕方なく、一口食べてみる。
あれ?・・・薄い。
ほとんど味無い。
よく見たら、
先に休憩に行った大学生たちの器にも、
大量にご飯が残っている・・・。
どうやら豆腐から水分が大量に出て、
味が薄くなったらしい。
結局、俺の作った麻婆豆腐は、
鍋からは無くなったが、
洗い場に食べ残しが
大量に置かれることになった。