ぺらいち君のイマイチ人生

~東京ドームから徒歩5分~

ぺらいち君のイマイチ人生~東京ドームから徒歩5分~

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冴えないオジサン

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平日の昼下がりの出来事。
俺は五反田にある歯医者に行こうと
山手線に乗りこんだ。
すると同時に、男女が乗り込んできて、
ちょうど俺の向かいの席に座る。
男の方は、上下黒のジャージを着た
50代くらいの冴えないオジサン。
そのオジサンに腕を組んで
寄り添っている女の人は、
モデルのような美人で30代前半か、
それより若く見える。

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(羨ましいなぁ。
 でもこんなオジサンの
 どこがいいんだろ?)

そんなことを思いながら
スマホに目を移してしばらくすると、
目の前のオジサンがふいに叫び声を出す。

「ウオッ!!」

見ると、オジサンが
両手で目の前の何かを振り払っている。
かと思うとバっと立ち上がり、
のけぞったり、
頭をブンブン振っている。

「くそっ、なんだよっ!!!」

オジサンの隣の女の人も
キョトンとしてオジサンを見ている。

(何やってんだ、この人?)

オジサンはやっと落ち着いたかと思うと、
フゥーと息をつきながら座席に戻る。
するとふいに俺の目の前を
黒い影が通過する。

ブーーーーーン

なるほど、どうやら、
ハチのような虫が飛んでいたらしい。
しかも結構大きめ。
俺は、右手でブンっと虫を追い払うと、
虫はオジサンの方に戻っていく。

「うぉっ!」

虫はおじさんの黒色ジャージに
執着するようにまとわりついている。

「ひぃぃっ!!」

ついには、
すっとんきょーな悲鳴をあげ、
慌てふためくオジサン。

「も~なんなんだよ~!」

虫の居場所を見失ったオジサンは
いきなりジャージを脱ぎだす。

(うわ・・ダッセーw)

俺も思わず吹き出して笑ってしまう。
しかし、オジサンがジャージを
女の人に渡すと、そこには、
白のタンクトップから
むき出しになった逞しい腕と、
そこにビッシリと描かれた入れ墨が。

(ゲ・・・マジもんやん・・・)


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俺は咄嗟にオジサンから目を逸らし、
真顔で静かに座り直すがもう遅い。
視界の隅でオジサンが
女の人に何やら
耳打ちしているのが見える。

(やばい・・・)

「誰だ?笑ってたのは。あいつか?」

そんなことを話しているのだろうか・・・

そこから
知らんぷりして待つ五反田までの
5分間が俺には
死ぬほど長く感じられた・・・。


力が入らん・・・

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今日はもうガックリで、
力が入らない・・・。

そう・・・広島カープが3連敗。
日本シリーズ
先に4勝したほうが勝ちなので、
もうあとがない。

僕がこのブログに書いた選手や、
チームが、その直後
いきなり不調に陥るという
記事を以前、書きましたが、
(僕のまゆつば話に
 興味がある方は、こちら)

peraichikun.hatenablog.com


今日は、もう、そんなこと関係ねぇ!
カープのことを書かずにはいられない!
もう、カープすでに
不調だしね・・・!!! 

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うう・・・
今日は、やっとシリーズ不調の丸が
逆転ホームランを打って
よっしゃぁ!今日はイケる!!
と思ったのに・・・。
サヨナラホームランで負けるなんて・・
中崎・・・
いつもヒヤヒヤさせられてたけど・・・

なんしょんねん!!!

いや、打ったギータ(柳田選手)も
すごいんだけど・・・
バット折りながらホームラン
なんて聞いたことない。

なんと2014年以降、
セ・リーグの代表チームは
パ・リーグの本拠地で勝ってなくて、
これで13連敗らしい。
セ・リーグのチームにとっては
屈辱的な記録をまた更新してしまった・・・。

でも明日からの日本シリーズ第6戦は、
カープのホーム、
マツダスタジアムでの対戦。
今シーズンのカープ
ホームでの強さは異常で、
実にホームでの勝率が64%。
スタンドは真っ赤に染まり、
やはり、カープ有利!!!
・・・と思いたいのだが、

正直、一昨年の悪夢が蘇る・・・


一昨年の日本シリーズは、
ホームのマツダスタジアムで2連勝して
イケイケで日本ハムの本拠地、
北海道に乗り込んだが、
そこでまさかの3連敗。
その後、広島に帰ってきて、
ホームで逆襲するはずが、
10-4の大敗・・・。

うーん、今回も全く同じ道を
歩んでいるような・・・
マズい流れだ。

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でも!ここでこそ、
“逆転”のカープを見せてほしい!

ギャンブルで負けてばかりの
俺が言うのもなんだが、
勝負事って、流れが
とても大事だと思う。
パチンコや競馬では、
負けた分を取り返そうと
すればするほど
ドツボにはまっていくし・・・。

こういう悪い流れのときって
どうすればいいんだろう。

やっぱり、初心に帰ること?

そういえば、ここにきて
今シーズンで引退する新井サンの
存在感が薄くなってきている
ような気がする。

日本一へのモチベーションとして、
今期で引退する新井さんに花道を・・・
ってはずだったのに・・・

う~ん。
ここは新井サン先発!!!
とか思い切った作戦もアリかも?

とにかく!!
新井サンと1試合でも
長く試合するためにも、
このままでは終われんぞ!カープ!!!
まだまだ「宮島さん」を
いっぱい聞かせてくれ!!!

カープが得点すると、
 この「宮島さん」という応援歌を
 ファンたちは歌います)

「宮島さん」

宮島さんの神主が~

おみくじ引いて申すには~

今日もカープは勝ち勝ち勝ち勝ち~

オーワッショイ ワッショイ

オーワッショイ ワッショイ

今日もカープは勝ち勝ち勝ち勝ち~

バンザーイ! 
バンザーイ! 
バンザーイ!



 

 

 

恋はいつも真剣勝負

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先日、“フットサルをやろう”と
バイトの大学生が呼び掛けると、
10人ほど集まった。

そして、マネージャーと称して
俺がひそかに恋するアンナも
参加することに!

お昼過ぎ頃、集合場所の
フットサル場に着くと、

「ぺらいっち!」

バルセロナのユニフォームに
着替えたタクマが俺を
手招きして呼んでいる。
いつの間にか呼び方
“ぺらいっち”になってるし。
まぁいいか。
タクマは先日、
俺の恋愛アドバイザーを
自ら買って出てくれた
自称“恋愛マスター”のイケメンだ。

「チャンスっスね」

「なにが?」

「カッコいいところを見せる
 チャンスですよって」

なるほど、一応俺は、
中高サッカー部で経験者(補欠だけど)
ここでは未経験者が大半なので、
アンナにカッコいい姿を
見せられるかもしれない。

「じゃぁ・・・
 まずはホンダ作戦っすね」

「は?」

タクマ曰く、
サッカー日本代表本田圭佑は、
高校時代、敵チームのマネージャーに
一目ぼれし、
“この試合に勝ったら、
付き合ってくれ”と言い、有言実行。
そして、その敵チームだった
女子マネージャーが今の奥さんらしい。

「ぺらいっちも、
 アンナにバシッと言うんすよ」

「いや、スケール違いすぎるし!
 それは真剣勝負の試合だから
 カッコイイんであって、
 こんな遊びのフットサルに、
 真剣さなんて微塵もないよ?」

「ハァ・・・」

タクマは肩をすくめ、
両手のひらを上にあげて
呆れたというような
ジェスチャーをしている。

「だからぺらいっちは、ダメなんスよ。」

「ハァ?」

「恋はいつも真剣勝負っスよ。」

なるほど・・・
ってやっぱりおかしくないか?

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しかし、タクマの
妙に真剣な眼差しに、
またうまく丸め込まれた気がする。
でも・・・このまま
進展しない状況が続くなら、
行動を起こして失敗したほうがいい!
やれることはやってやるぞ!
俺は真剣な眼差しでベンチに
座っているアンナへ
ゆっくり近づいていく。
 
「アンナ、次の試合
 ゴールを決めたら
 俺とデートしてくれ」

「え?いいですよ~」

え?!!軽いっ。
てかいいの?!
思わぬ即答にこちらがビックリする。
冗談だと思ってるのかな。
まぁでも、言ってみるもんだな!

そして試合開始。
周りは初心者が大半と言えど、
何年も運動をしていないブランクはデカく、
中々思うように動けない。
やっと少し動けるようになってきた時には、
スタミナも底をつきそうだ。
時計を見るとまだ5分も経ってない・・・

ハァハァ・・・しんどい。

長年のタバコもたたって、
連続で走ると吐き気がする。

オエッ

これ、ゴールなんてムリかも。

チラッとベンチの方を見ると、
真剣な表情でグラウンドを
見つめるアンナがいる。

・・・いやっ、やるぞ!
 
「ぺらさーん!」

その時、俺の頭上に
フワッとしたロングパスが。
俺はそのボールを胸でトラップ、
そこからノーバウンドでボレーシュート
自分でいうのもなんだが、
華麗なボレーシュートだ。
そして俺の放ったボールは
ゴールに一直線に向かっていく。
いけええー!!!

「甘いっ!!!」

相手キーパーのタクマの
横っ飛びキャッチのスーパーセーブ。

おい!!!

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「ななんでおまえが止めんだよ!」

「あ・・・つい」

タクマは慌ててボールを
ゴールに投げ込むが
そんなオウンゴール
ゴールと言えるのか・・・
結局俺は最後まで
ゴールを決められず・・・。

がっくりと肩を落としている俺に
タクマが言う。

「だから恋は真剣勝負だって
 言ったでしょ」

・・・うるさい!!

 

 

いつもいる

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秋田出身の大学生トミーは、
親が歯医者を開業しており、
お金には、あまり困ってないらしく、
あまりシフトに入っていない。
しかし、何かと口実をつけて
毎日のように店舗にくる。

ある時、休憩所に行くと、
トミーがいるので声をかける。

「あれ?今日出勤?」

「いや、違います。
 シフトを確認しにきたんですよ」

いや、シフトはバイトのLINEで
流しているはずだが・・・。

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そして次の日も、トミーがいる。

「あれ?今日出勤じゃないよね?」

「はい」

「トミーって、いつもいるよね」

「そんなことないですよ!」

「ヒマかよ!」

「いや、違いますよ。
 スマホを昨日店に置き忘れたんで
 取りに来たんです」

そしてその次の日も・・・

「また、おまえか!
 どんだけ店が好きなんだよ!」

「いや、そんなんじゃないですよ。
 今日はたまたま近くまで来たから
 寄ってみたんですよ」

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・・・大学に友達とかいねぇのかな?
あ、でも、この前、
誕生日プレゼントがなんとかって
言ってたから、彼女いるんだよな・・・

「おまえ、彼女とは会ってんの?」

「え?毎日会ってますよ~」

「え?でも、昨日ここにいたじゃん」

「あぁ、彼女は凜ちゃんです。
 ラブライブの」

・・・ラブライブ??

「もしかして・・・二次元の彼女?」

「はい。誕生日に
 プレゼントあげるのは常識ですよ」

 

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まぢかよ・・・・
バッチバチのオタクじゃねーか・・・

そうか、トミー・・・
おまえは、他に行く所がなくて
毎日店にいるんだな・・・

そこへ、大学生のトモコが出勤してくる。

「え?ぺらいちさん、
 今日も出勤ですか?

 なんか、いつもいません?笑」

そう言われれば、俺もいつもいるな・・・
だから、トミーといつも会うのか・・・

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なんか急に寂しくなってきた・・・

「トミー!今日飲みに行くか!」

「え!いいんですかー?
 ゴチでーーすっ!」

えっ、オゴるとは言ってない
・・・けど
まぁ、今日くらい、いいかっ!


 

恋愛マスター

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あ、アンナが来た・・・。

「ぺらいちさん、おはようございます」

「あ・・・、お、おう」

ハァ・・・またやっちゃったよ・・・。

 

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昔から好きな子ができると、
妙に意識しすぎて、
話しかけられなくなってしまう。
逆にあちらから話しかけられても、
緊張して、ぶっきらぼう
接し方しかできないし。

「はぁ~~眠い・・・」

この前、バイトに入ってきたタクマだ。
髪はオレンジで、坂口健太郎
ちょっと似ているイケメン。

「いや~、おれ今日、
 ブクロのラブホから出勤なんスよ~」

「へ~」

いや、聞いてねーし。
タクマは見た目通りチャラく、
いつも自信満々のカッコマンだ。

「元カノとなんスけど。
 あいつ求めすぎ!
結局朝までっすよ?
 もう疲れましたよ~」

「そうなんだ~、そりゃ疲れるね・・・」

いつも聞いてもいないのに
自慢話を始めるし、
正直言ってイケ好かないが・・・
俺もこいつみたいに
自信満々になれたらな・・・。

「ハハ、分かってますよ」

「は?何が?」

「ぺらいちさん、
 アンナのこと
 好きなんじゃないんスか」

「え・・・」

「モロバレっスよ」 

「な、なんで?」

すると、タクマの表情が一変する。

「人の気持ち分からないで、
 人を愛せますか?」


タクマの真剣な表情は、
なんだか不思議な説得力がある。
たぶんイケメンマジックだ。
こういうギャップに
女の子はやられるのかなぁ・・・。 

「おれヘルプしてあげましょうか?
 恋愛に協力者は必須っスよ。」

確かにタクマは、
明らかに俺より経験豊富そうだし、
アンナとも年が近いから気持ちも
わかるかもしれない。
それに俺は、好きな子ができると
周りから攻めるタイプ。
タクマはまた笑顔になり、
真っ白な歯を
剥き出しにしながら笑っている。

「任せなさいって!
 おれ、恋愛マスターっスから!」

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やっぱり不安・・・

そうして半ば強引に、
自称“恋愛マスター”タクマは
俺の恋愛アドバイザーに就任した。


博才がない

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バイトに向かう途中、
駅前の宝くじ売り場の
スピーカーから音が聞こえる。

「今ならキャリーオーバー3億円!!!」

はぁ・・3億円もいらないから、
10万円でもいいから当たらないかな・・・
買いもしないのに、
そんな想像をする。

・・・いやいや、ムリムリ。

そんな甘い考えでどんだけ
お金をドブに捨ててきたか。
パチンコ、競馬、麻雀。
ギャンブルと名のつくものには一通り、
手を出してきた。
しかし、どれも散々な結果。
負けが重なり生活費にまで手を出し、
ついには消費者金融
借金も繰り返した。
信用も無くし、友人も失い、
親も散々泣かせてきた・・・

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以前、地元に帰った時、
たまたま寄った占い師の
おばあちゃんにもこう言われた。

「あんたぁ、ギャンブルはする?
 博才ないからせんほうがええね。
 生まれつき博才がある人は、
 なにやっても勝てるけど、
 あんたぁにはない。損するだけよ」

そう、俺には博才はない。
真面目にコツコツ。
今日もバイト頑張るぞ!
更衣室で着替えていると、
大学生のトミーが話しかけてくる。

「ぺらいちさん、
 今週末の競馬買います?」

トミーは先月、
初めて買った馬券が当たって、
儲けたので調子づいてるらしい。

バカ。・・・それが落とし穴だよ。

俺もビギナーズラックで
調子に乗ったのが
地獄への始まりだった。

「お前も俺と同じ匂いするから
 絶対止めた方がいいって」

俺は一応年上として、トミーを諭す。

「いや、おれ絶対博才ありますわ。
 今回勝ったら何買おうかな~」

「いや、そんなおいしい話が
 転がってるわけないからさ」

「えー?マジで行かないんすか?
 買わないと当たるもんも
 当たらないスよ」

「ムリムリ。損するだけだって」

「でも2番人気以降のオッズが
 10倍っすよ。10倍!!!
 千円が一万円ですよ!」

「いやいや・・・」

「もしかしたら100円が
 100万円になるかも
 しれないんですよ!?」

「・・・」

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数10分後には
トミーと賭ける馬を
真剣に選んでいる俺がいた。

伝説

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東京ドームには、
競馬の場外馬券場WINSがあるため、
バイトの大学生たちは
競馬部というものを作り、
休憩になると
みんなの予想大会が始まる。

俺も直感で参戦。

「おれ、この馬にしようかな」

「いや、今日は1600mの短距離だから、
 適正はこの馬だね。
 前走で4着なんだけど
 最後追い込んできてたし、
 今回絶対来る。

 今回得意の左回りだし。
 しかも毎年このレースでは
 ディープ産駒
(父親がディープ・インパクト
 が
勝ってるってデータもあるから」

膨大なデータを駆使し、
もっともらしい解説をするのは店長。

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「へぇ~そうなんですか。
 じゃぁそっちの方がいいか」

にわかファンの俺はホイホイと
店長の予想に乗ろうとする。

「止めた方がいいですよ」

そこへカサハラが止めに入る。

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カサハラ曰く
過去10戦ほど連続で、
店長が本命とする馬は
負けているという。
中にはダントツ1番人気で
優勝確実とされていた馬でさえ、
店長の予想に選ばれ、
負けてしまうという伝説まで作った。
それからというもの、
大学生の間では、
店長の買った馬を外せば勝てるとさえ
言われるようになっていた。

「今回は違うんだな~」

と豪語する店長だったが、
さすがに、そんなクソ予想屋の言うことを
聞くわけにはいかない。
俺は店長の予想する馬をはずし、
最初の直感の馬に賭けた。

そしてレーススタート。

俺の買った馬は、
出だしは良かったものの
後続にどんどん追い抜かれビリ。
そしてなんと、
店長の一番推していた馬が
大差で勝利。
10連敗の店長の悪運を
凌駕するほどツイてない俺って・・・

「うぁ~~~!」

横でなぜか店長の
雄叫びが聞こえる。

「え?店長の買った馬じゃないですか!」

「・・・いや~俺、
 最後の最後で変えたんだよ。
 オノくんと同じ馬に」

「え?」


・・・店長の予想する馬は外れる。
その伝説はやはり本物だった。

 

ハマーンが来ない

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「あいつ!なんで来ねえんだよ!!!」

朝から店長が怒りMAXだ。
糖尿病を患っている派遣社員ハマーン
月曜から2日間出勤していないらしい。
月曜、火曜と「病院に行く」と
電話してきたらしいが
3日目の今日はついに連絡もつかない。

「クソっ!しょうがねぇな~」

店長は、仕方なく
ピンチヒッターの
職人タカさんに連絡する。
タカさんは腰の曲がったお爺さんで、
たまにしか出勤してこない。
今日も家で休もうとしていたようだが、
仕方なく来てくれた。

ハマーンが来ないんだって?」

「そうなんだよ。
 相当辛そうな声だったから
 家でぶっ倒れてんだろ、どうせ。ハハ」

しかし、タカさんは笑って一蹴する。

「ちがうよ。
 ボート(競艇)だよ。
今、愛知で
 『ボートレースダービー』っての
 やってるんだよ。」


確かにハマーン競艇場がある
平和島に住むほどの
競艇狂いということは、
みんなの知るところではある。

「まさか~。それはさすがにないでしょ」

「いや、月曜から来てないんでしょ?
 ダービー月曜からだもん」

「え~?・・・ちょっと調べてみて」

店長に言われ、調べてみると、
たしかに今週の月曜から
『ボートレースダービー』という、
競艇ファンにとっては外せない、
年に一度の一大イベントが
愛知で始まっている。
ハマーンが休みだした日程と
バッチリかぶっている。

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これは・・・競艇行ったな・・・

「うん、絶対、来ないね」

タカさんは自信を持って言う。
人生経験の長いタカさんが言うと
なんだか信憑性がある。
そんな中、店長は一人反論する。

「いや、それはない!!
 もし今日来なかったら、
 もうクビだよ!クビ!!」

「じゃぁ賭けるかい?
 今日ハマーンが来るか来ないか」

タカさんは不敵な笑みを浮かべている
・・・

そして、いつの間にか、
タカさんと店長の間で、
ハマーンが今日
出勤してくるか、
出勤してこないかの
賭けが始まる。

「賭けって、何賭けんの?ジュース?」

「いや、それじゃつまんないから
 焼肉オゴリね。バイトの分も」

タカさんはノリノリだ。

「ヤッター!!!」

その場にいたバイトたちも、
焼肉をオゴッてもらえると聞いて、
店長を賭けから降ろさせない
ムードをつくる。

「店長は来る方でいいんですね?」

「え、おいおい・・・焼肉?!!」

店長はいきなり大きな金額になり
少し尻込みしているようだ・・・

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「え、ちょっと待って。
 マジかよ。
焼肉って・・・。
 うーん・・・
 いや、今回は、ホントに
 辛そうな声だったから、
 あれは演技じゃないと
 思うんだよな~・・・」

みんなの『早く決めろ』という
視線が店長に注がれる。

「よ、よしっ。・・・来る!

 来いっ!ハマーン!バカヤロー!!!」

 


そして・・・
昼過ぎになり、
何も知らないハマーン
ひょっこり出勤してきた。

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「店長、悪い!!
 スマホのバッテリーが切れてて・・・」

いつもならハマーンに対して
毒舌の店長も、賭けに勝ったからか、
心なしか優しい。

「お~ハマーン・・・!!
 大丈夫か?体?」

ハマーンが来ないことを
確信していたタカさんは
ビックリしている。

「おい、ハマーン!何で来たんだよ!
 競艇行ってたんだろ?」

「え・・・?い、い行ってないよ~」

あやしい・・・

結局、ハマーンが昨日、一昨日
競艇に行ってたのか、
真相は分からないが、
俺たちバイトからしたら
焼肉を食べれれば
どちらでも良かったのだった。

「タカさん、ゴチになりまーす!!!!」

言いたいッ!!!

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トモコと映画の中の
カッコいいシーンの話になった。
 
「大軍勢に向かっていく前に、
 大将が軍を鼓舞するシーンって
 カッコイイよね」


「あ~わかります~」

俺は久しぶりに見返した映画
【ロード・オブ・ザ・リング】の
シーンを思い描く。

「【ロード・オブ・ザ・リング】のさぁ・・・
 アラゴルンが

 軍を鼓舞するところいいよね」

「あ~わかります!
 アラゴルン、
 カッコイイですよね!」


アラゴルンが敵の大軍勢を前に
怯えきった兵士たちを鼓舞する言葉が
相当カッコイイのだ。
トモコも同調してくれて、
俺の気分も乗ってくる。

俺はアラゴルンの
カッコいいセリフを
言おうと、前のセリフから説明する。
 
「『もしかしたら悪が
 この世を支配するかもしれない、だが・・・』」

 

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すると、ふいにトモコが、横から入ってくる。

「『それは今日じゃない!!!』
 ですよね~
 かっこいいですよね~」

・・・くそぉ
1番言いたいところを
横取りされた・・・。 

しかし気を取り直して、
その後のさらに
カッコいいセリフを準備する。

「そう!それ!!でさ、
 最後の突撃の前のアラゴルンも
 もっとかっこいいよね。

 アラゴルンがこう振り返って・・・フ」

「『フロドのために』ってやつね。」


「そう!!!」

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もうっ!!!

なんで俺の言いたいセリフ
全部先に言っちゃうの!
結局、最後まで
俺の言いたかったセリフは
言わせてもらえなかった。