クールにヨロシク!
演劇フリーターのヒロセが、
今日が初出勤という
新人女子大生のアンナに、
先輩バイトたちを紹介しながら
店を案内している。
これまた、なかなか初々しく
可愛い感じの女の子だ。
「この人が、カサハラやね」
「分からないことあったら
何でも聞いてよ~」
「で、この子が1年のトモコ」
「よろしくお願いしま~す。
ダンスやってま~す」
もうすぐ俺の番がくる。
こういうとき、俺は
できるだけクールに、ヨロシク、
とだけ言って終わらせる。
特に年齢などは明かしたくもない。
20歳そこらの大学生が
俺の年齢(32歳)を知ったらきっと、
“この人はこの年で就職もせず、
こんなところで一体
何をしているんだろう?”
なんて思われるに決まっている・・・。
もちろん年齢などいずれバレるのだが、
第一印象くらい少しでも
若くカッコよく見られたい・・・
次々に紹介が進んでいき、
ついにヒロセが俺の前に来る。
よし。いつものようにサラッとクールに終わらせよう。
「えっとねぇ、この人は・・・」
ヒロセはなぜか俺の体を見回し、
言葉を探している。
「この人は・・・細長オジサン」
新人の女の子は、思わず
プッと吹き出して笑っている・・・。
そして、さらにヒロセは続ける。
「32歳」
おい、このヤロー!!!
「・・・ヨロシク」
どれだけクールに言ったところで、もう遅かった。