ぺらいち君のイマイチ人生

~東京ドームから徒歩5分~

ぺらいち君のイマイチ人生~東京ドームから徒歩5分~

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学歴なんて関係ねぇって

そんなのいいから、
静かに寝かせてくれ・・・。

 



休憩室で寝ていると、大学生たち4~5人が
話している。
彼らの喋り声は、とにかく大きい。

「やっぱ就活って学歴影響するよね~」

こっちはクタクタでちょっとでも寝たいのに。
うるせぇなぁ。
だいたい、学歴なんて関係ねぇって。
そのまま腕を組んで、目をつむり眠ろうとする。


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「でもさぁ・・・、この店で学歴トップってだれ?」
「ツジタじゃね? 法政」
「いや、オノさんでしょ?」
「え? どこなん?」
「たしか、横浜・・・」
「・・・市立?」

市立じゃねーよ。国立だよ。
まぁ大したことないけど・・・。

ここで起きたらなんだか小恥ずかしいので、
そのまま寝たふりをする。

「そうだ! 横浜国立だったよ」
「え? まじ!? すっごーー!!」
「じゃあ、オノさんがトップかぁ~。頭いいな~」

・・・しょうがない。
寝たふりも疲れたし、そろそろ話に加わるか。

「いや、いたわ、前に。東大のヤツ、いたわ!」
「まじ!?」

学歴なんて関係ない・・・うん。

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俺は、寝たふりを続けた。

 

 

広島の男

広島弁は俺のアイデンティティ
まずは、軽いジャブといきますか。

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「オノさん、東京出身ですか?」
来た来た。初めて会う人から
まず聞かれるのがだいたい、出身地。
俺は広島。

広島県人というのは、広島という土地に
愛着を持っている人が多い気がする。
中四国のリーダーはわしらじゃ!
みたいな、妙なプライドも持っている。

まず、話のネタには困らない。
広島と言えば、修学旅行でよく使われる
世界遺産原爆ドーム、宮島。
スポーツならカープサンフレッチェ
食べ物なら、牡蠣、お好み焼き。
そして、暴走族、ヤクザ。

しかし、何といっても広島弁だ。
広島出身と言うと、
広島弁しゃべってみてくださいよ~」
とよく言われる。
でも、そこからドンドン話を広げられる。
つまり、広島出身はということは、
自らのアイデンティティを保つうえで
かなりのアドバンテージで、自分の特徴を
印象づけるのに一役買っているのだ。

まぁ、まずは軽いジャブといきますか。
10年以上こっちに住んでるから、
バリバリの広島弁とはいかないが、
少し思い出せばすぐに出てくる。

俺は、わざと広島弁を混ぜながら
澄ました顔で答える。
「ん? 俺? 俺は、広島じゃけぇ」
「あ、そうなんですかぁ~」

あれ・・・?

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なんだか予想した反応と少し違う。
もっとこう、
「え~! 広島弁っていいですよね~」
とかいうノリで来ると思ったのに。

もしかして、“じゃけぇ”っていう語尾が
聞こえなかったのかな? 
いかん、いかん。最初が肝心。
俺は、さらに広島弁をゴリ押ししていく。

「そうなんよ~。ええじゃろ?」
「あ~、そうですね~」

あれ・・・?
おかしいな、全然食いついてこない・・・。

すると、なにやらホールの方で
大学生たちが盛り上がっている。

「あはははは! マルオ君おもしろーい!!」
「嘘じゃろ~、ワシがそんなにおかしいん?」

”ワシ”? ・・・え、広島弁
しかも、一人称が、“ワシ”だと?
自分のことを“ワシ”と言えるのは、
菅原文太山本浩二くらいにしか
許されていない、広島弁の高等技術。

俺なんて、一度も使ったことがない。
「ワシは、ワシよ!
 広島の男は、みんなそう言うんよ!」
いやいや・・・。

どうやらマルオという奴は、俺より一週間前に
採用された広島出身の大学生らしい。
しかも、生粋の広島弁
どーりで、俺の広島トークが盛り上がらないわけだ。
きっと数日前に入ったマルオが、
もう既に広島トークを散々披露したのだろう。
くそぉ、マルオ。
俺のアイデンティティを奪いやがって。
許せん・・・。

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「あ、そういえば、
 もう一人広島の人が入ってきたらしいよ~」
「え~、ホンマにぃ? どこにおるん?」

マルオと大学生たちが
キッチンにぞろぞろと入ってきた。

「あ! いた! オノさーーーん!
 オノさんも広島なんだって!」
「俺・・・? あ、いや、ワ、ワシ?
 う、うん、ワシも広島よ」

俺は、一度も使ったことのない“ワシ”を
この時初めて使ったのだった・・・。



俺の履歴書

時が来た!
金がない。夢もない。女もいない。
男32歳、フリーター生活始めました。 

 

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「えっと、オノくんね・・・」
「はい」
「32歳」
「はい」
「へ~、国立大学出てるんだ」
・・・からの~。
「今まで、何してたの?」


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俺は今、居酒屋のアルバイトの
面接を受けている。
どこを受けても、大学名を見たあとに
出てくるのは、決まってこの質問。
地元広島の某有名私立高校を出て、
現役で横浜国立大学に進学。
順風満帆な船出だった。

・・・のはずだった。

「俳優養成所に行ってたのか。
 何か出演したの?」
「ええ、小さな小屋ですけど、
 いくつか舞台に」

大学卒業後、
周りが続々大手企業に就職する中、
「俺は、皆とはひと味違った人生を生きる!」
と息巻いて俳優養成所に入り、役者をめざした。
一応、身長は180㎝あるし、顔は・・・
まあ、それなりに大学時代には彼女もいた。

「なんでやめちゃったの?」
「はい、時が来たなと」
「時が来た……?」
「役者を卒業する時が来たと思って」

 

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それは、板野友美がAKBを卒業する時に
言ったセリフだ。
人生には、潔く去るべき場面があるのだ。
俺は、ビッグになることを夢見た役者の世界を
一度も主役を演じるチャンスもなく見限った。

その後は、ひたすらアルバイトで
食いつなぐ日々。
ある時、パチンコ屋で働いたのが
きっかけで、自分もパチンコにハマる。
バイトで稼いだ金は、
そのままパチンコ台に吸い取られ・・・。
そして、そうなるべくして迎えた借金生活。

もともと太りにくい体質ではあったけど
ひどい食生活とあいまって、
せっかくの180㎝の長身も
ただただ細長いヒモのように見える。

屋内での潜伏時間が圧倒的に長く、
そんじょそこらの美白女子に
負けないくらいの白い肌が、
よけいに不健康さをプラスしている。
いっそのこと、キャリアウーマンの
ヒモにでもなりたい・・・。
それにしては、母性本能をくすぐるような
甘い顔でも性格でもない。
この数年、恋すらしてねーぞ!!
俺って、なんて不器用な人生なんだ。

たしかに今、
「みんなとはひと味違う人生」を歩んでいる。
うん。ヤバい方に・・・。

「うち、大学生ばっかだけど大丈夫?」
「自信あります!」

役者時代に鍛えた腹式呼吸で、
無駄なボリュームで返事をする。

「じゃあ、さっそく明日からよろしく」

え? 採用決定!? おっしゃ!!
やっぱ、こういう時に国立大学出たのが
効いてくるんだな。

「いや~、フリーター欲しかったんだよね!!
 今、猫の手も借りたいくらい忙しいから。
 なるべくたくさん入ってくれる?」

 

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あ、そこね・・・。俺は、猫の手ね・・・。

かくして、俺のフリーター人生が始まった。